死神はどこから来るのか。

 ほんとに個人的な発見なんですけど。
 
 初読から30年近くたってようやく、「モモちゃんとアカネちゃん(松谷みよ子)」に出てくる「死神」が何を意味していたのか気づきました。
モモちゃんとアカネちゃんの本(3)モモちゃんとアカネちゃん (児童文学創作シリーズ)
 死神は、同書の中の「ママのところに死に神がきたこと」というエピソードに出てきます。
 
*あらすじ
 
 深夜、寝ているママがふと目を覚ますと、ベッドの足元に死神が立っています。
 
 ママは、悲鳴を上げようとして声を上げられないまま、
 
「儂のことを死に神だと思うておるね?」
「とうとうやって来た、と、思うておるね?」
 
 とか不気味なことを言う死神の方に、ずずっ、ずずっ、と引きずられていきます。
(台詞うろ覚え)
 
 で、もうだめだー、と思ったところで、アカネちゃん(生まれたばかりの赤ちゃん)が目を覚まして、「ウックーン、ウックーン、ウマウマ」とか声を出すと、死神はすっと消えてしまいます。
 そして、我に返ったママは、
「お腹がすいたのね、ミルクをあげましょうね」
 ……とか言って、アカネちゃんの世話を始めます。
 
*あらすじここまで
 
 小学生の頃読んで不思議だったのは、そんな恐ろしい死神が、なんで赤ん坊の声ごときで退散するのか、ってことだったのですが。
 
 ……でも、さっき気が付いたんですけど、この「死神」は、ママ自身の心の中にいるんですね。
 別に、黄泉の世界から来たのではなくて。
 
 夫婦関係がうまくいっていない(この後離婚するのです)こと、それが原因なのか体調もすぐれないこと、そういったことがあって、夜中に目を覚まして「生きているのが辛い」「何もかも捨てて楽になりたい」的な虚無感に襲われて。
 声も出せないまま、ずるずると死神の方に引きずられて行くのです。
 
 でも、子どもがばぶばぶ言い始めると、ひとまずそういう思いは頭を去って、何とか目の前の日常に対処していく……という。
 
 ……でも、それで死神がいなくなったわけではなくて。
 死神は、この後も何度も何度もママの元にやってくるのだ……というのは、その後のエピソードで触れられています。
(そして、苦しんでいるママに、魔女……「不思議な森のおばあさん」がくれたアドバイスが、「このままでは二人とも枯れる」ということなのですが……)
 
 ……まあ、だから何? と聞かれると困りますけど。
 
 ただ、「童話」ということになっていますけど、「モモちゃん」シリーズはほんとに深すぎだろう……と思います。
 
 最初、モモちゃん(長女。第一子)が生まれた頃は、「にんじんさん」「じゃがいもさん」「たまねぎさん」がお祝いにやってくる(「おいわいにカレーライスを作りますよ!」「まあ! モモちゃんはまだ赤ちゃんなんだから! カレーライスなんて、だめだめ!」)とか、ほんとにほんわかしたお話なのに、モモちゃんが成長するに従って、世界が段々現実寄りに変化していくんです。
 でも、飼い猫のプーは、相変わらず人間としゃべれるし、森の中には魔女が住んでいる……。*1
 あの不思議な感じ、ほんと大人にもオススメです。

*1:ふと気づいたけど、ドラゴンボールに似てるかも知れない。
最初は、村人に怖れられる牛魔王や、カリン塔には仙人が住み、天下一武道会には怪獣が出てくる、みたいな民話チックな世界だったのが、いつの間にやら神様の正体は宇宙人になり、ただのプロレスラーが「世界最強」と崇められるようになり……。