昨年度まで勤務していた、鱶沢小学校での話。
いや、リレーションシップ・マーケティングというのは、
「顧客と良好な関係を築くことで、長期間に渡って取引を継続しようというマーケティング手法」
http://e-words.jp/w/E383AAE383ACE383BCE382B7E383A7E383B3E382B7E38383E38397E3839EE383BCE382B1E38386E382A3E383B3E382B0.html
なんだそうですが詳しくは知りません。
例によって釣りタイトルですが、何か?
さて。
体育館シューズ、って言ってわかりますか?
体育館専用のシューズのことです。
教室などで履くシューズ(いわゆる「上履き」)とは別のもので、体育館の入り口で履き替えます。
地域によってはないらしいのですが、本校にはあります。
さて。
長年、学校指定の体育館シューズがあったのですが、先日それが変更になりました。
事の発端は、新入生保護者会。
来年度からお子さんが入学する保護者の方にも、体育館シューズについて説明し、購入していただかなければならないのですが。
保護者「……でも、その“取扱店”って、遠いですよね……?」
はい。
なにぶん僻地にある本校のこと。
学校の近くに靴屋などないので、指定の「体育館シューズ」を扱っている店を紹介するのですが、これが虚実市街とは逆方向、山を越えてその向こうの杣谷町に行く途中の道にあるのです。
保護者「それに、サイズによっては在庫があるとも限らないんですよね?」
はい。
なにしろ、そのシューズを使ってるのは近隣では本校のみ。
児童数2ケタの本校のために、全サイズ取りそろえてなどいるはずがありません。
主なサイズは在庫があるでしょうが、売り切れ次第あとはお取り寄せ、ということになります。
早めにサイズを連絡して確保してもらった方が……
保護者「……であれば、虚実小学校とかとそろえたらいいんじゃないでしょうか? それだと、虚実市内の学校でも扱っていますから、買い物のついでとかに買って来られるし、品揃えも多少は豊富でしょうし……」
……は……なるほど……。
1年担任「……と、いうことなんですが……」
体育主任「確かに、全校生があのシューズ(ひも靴)を使ってるのは、市内ではたぶん本校だけですね。かつては、合併前の旧鱶沢小と旧卯崎小で採用していましたが……」
校長「他の学校は?」
体育主任「靴ひもがなくて、甲ゴム……要するに上履きみたいなものです。*1という。水屋小学校は、1〜3年が上履きタイプで4〜6年がひも靴です」
それも意味不明な制度ですが。
足の成長にかかわらず4年進級時に全員買い換えなきゃならんわけで。
校長「中学校は?」
体育主任「ゴムですね」
校長「……ってことは、ひも靴を買っていたからといって、中学校につながるわけでもない……」
体育主任「そうなります」
校長「安全性とかどうなの?」
体育主任「まあ……どちらでも問題ないかと思います。あえて言えば、靴底の材質などはひも靴の方が滑りにくいように思いますが」
校長「値段は?」
体育主任「ゴムの方が安いです」
校長「ふーん……」
*まとめ
取扱店:甲ゴムの方が便利なところにある。
品揃え:甲ゴムの方が豊富。
安全性:大差ない。ひも靴の方がやや安全だがどちらも問題ないレベル。
将来性:甲ゴムなら中学校でも履ける。(1年生には関係ないかも知れないが)
値段:甲ゴムの方が安い。
校長「……甲ゴムにしようか」
教頭「在校生については、今のままのシューズを履いていて構わないけれど、買い換え時には順次新しいタイプの物を買っていただく、ということで」
校長「そうなると新入生だけでなく全保護者に通知しないとならないので、体育主任、通知を作成してください」
体育主任「はい。あと、今までのシューズを置いてくれていたお店にも連絡しておきます」
ということで一度は落着。
さて数日後。
朝職員室に入ったらなんか陰鬱な空気。
何事?
校長「……さて、先生方おそろいのようなので、体育主任、説明を……」
体育主任「はい。……えー、昨日、今までの体育館シューズを置いてくれていたお店に連絡をしたわけですが。向こうのお店の方がいたくお怒りで……」
*まとめ
そもそも体育館シューズというのはロクに儲けもないのにお宅の学校が置いてくださいお願いしますというから毎年毎年発注して今年だってすでに仕入れてあったのにそっちの都合でいきなり「今年からいりません」ってのはあんまりだろうし買い換えの数だって年に何足も出ないのにわざわざ在庫とって置いてあるのはほとんど学校から頼まれたから好意で置いているようなもんなのにそんな恩知らずなこと言うようなんてひどい話でもうお宅の学校とは取引したくないよ!
ガチャン!
体育主任「……と、いったような状況で……」
一同「……」
体育主任「あー、あと、『訴えてやる!』みたいなことも……」
校長「……どうしたらいいと思われますか先生方?」
一同「……」*2
校長「……私としては、やはりこれは向こうの言うことがもっともで、今まで通りのシューズを今年度も採用しようと思います」
教頭「……であれば、保護者全体への通知はまだですから、とりあえずPTA会長さんとそのお店へ連絡を……」
という事で再び落着。
さて放課後。
校長「……体育主任、説明を」
体育主任「はい。……昼過ぎにお店の方に連絡したのですが、
『*まとめ
どのみち儲けの少ないものだし、無理に採用してもらうには及ばない。
今なら返品もきくので、店の在庫は全部メーカーに送り返すことにする(送料はかかるがやむを得ない)』
……といった話で……」
一同「……」
校長「……と、いうようなことですので、やはり、前回の話し合い通り、ゴムの靴を来年度から採用、ということにしたいと思います」
教頭「では、保護者に連絡を」
体育主任「合わせて、お店の方の話では、すでに以前のタイプのシューズを買って行かれた方もいるとのことで。まだ返品に応じるそうですので、そちらにも連絡を……」
校長「希望があれば返品していただくことにして、購入したものをそのまま使いたい場合はそれでも可、ということに……」
教頭「PTA会長に連絡を」
1年担任「新入生の保護者に確認してみます」
……と、いうような顛末で、来年度から本校で採用する体育館シューズは変更になりました。
体育主任が作った通知にはシューズの写真が載っており、これを見た子どもたちは
A児「かっこわるーい!」
B児「今のの方がいいー!」
とか言っていましたがまあそれはさておき。
K村「別にすぐにこれに換えるわけじゃないんだよ。今履いてるのはきつくなるまで履いてていいから、次に買い換える時はこっちにしてね、って話なんだ」
それはさておき。
まず、そもそも体育館シューズは必要なのか? という話。
体育館シューズ、採用してない学校もあるわけですから。
採用する理由としては、
1・体育館の床を傷つけないため、体育館専用の靴を使う。
2・体育館のワックスは教室などと違う特殊なもので、普通のワックスが付着した上履きで体育館に入ると滑りやすくて危険。
この理由だけだと、なにも学校で特定の靴を指定しなくてもいい、という気がするのですが、
3・運動すると滑るので、滑りにくい靴底を備えたシューズが必要。
……と、いうこともあるようです。
「別に“どんな靴でもいいです”ってことでいいんじゃない?」
という声は、話し合いの時に出るには出たのですが、
「それで体育館での運動に向かない靴を買ってこられても困る」
「そうすると、“じゃあどんな靴がいいのか”という話になって、結局例示することになるから、だったら指定した方が良い」
……といった理由で見送られました。
規制緩和論者の私としてはちょっと残念ですが。
リレーションシップ。
結果的には、保護者の要望が通ったわけですが。
しかし振り返るに、学校の判断は適切だったのでしょうか?
こちらから在庫を置いてもらうようお願いしておきながら、一方的に
「今年から買わないことになりました」
という学校のやり口は、確かに問題があったでしょう。
まあ、3年もあれば職員の大半が入れ替わってしまう学校のこと。
こちらからお願いした、ということが引き継がれていなかった、というのが問題なのですが。
……でも、引き継いでいたらどうだったのか。
「指定を変更した方が保護者にメリットがあるのはわかっているが、こちらからお願いした手前、信義や業者の心情を考えると変更できない」
……というのは、正しい対応なのでしょうか?
私は民間に勤めたことはありませんが、顧客*3の満足を考えるなら、そういう選択はありえないような気もします。
一方で、内定取り消しとか下請けいじめとか、いかに不況下でどの企業も苦しいとはいえ、許されないことだと私は思います。
その伝で言うと、
「保護者から要望があったから今年から取引中止しますね。在庫?店頭に置けば?」
みたいなのもあんまりだと思いますし、そもそも学校は営利団体ではないのですが、営利団体ではないからこそ、
「今まで通りのシューズでいいんじゃない? ちょっと高いけど、まあ保護者のお金だし」
みたいなのも許されないのではないかなー、と思ったのでした。
……まあ、現実的には、業者への「公平性(≒結果平等)」が優先されて、保護者の利益は微妙に後回しにされているな、というのが実感なのですが。
(過去記事:「癒着構造」)
学校は、子ども以外に対してはもっと非情であるべきなんでしょうか。
地域密着型の組織だけに、
「地元業者としかつきあえない」
というのが問題をややこしくしてる気もするんだけど……。
「Amazonで一括注文します」
とかって、公立学校では聞いたことがないけど、どんなもんでしょう。