伝説の生き物。

夏休みに沖縄に行ってきたA児が、おみやげをくれました。
 
「サキシマハブに注意」
と書いたパンフレット。
 
……いや、面白いからいいけど。
 
サキシマハブは沖縄に住む毒蛇の一種。
咬まれて死亡する例は少ないものの、被害件数はハブの5倍とか。
 
昔、一度だけ沖縄に行った時には、宿舎の人が、
「夜中にトイレに行く時は、暗い隅の方には近寄らないように」
と教えてくれたものです。
「ハブがいるかも知れないから」
というので、ずいぶん恐ろしく思ったものですが……。
 
さてこのパンフレット、どこが発行したのか明記してない(石垣市役所かな?)んですが、
「監修:沖縄県
とあるので、すくなくとも準公式的なものであるよう。
 
対策(ヘビ用フェンス、ハブ捕り器、毒の吸入器……etc)や、「もし咬まれたら」など、図解入りで興味深いのですが、中でも面白かったのが、
「サキシマハブについての誤解を解く」
 
石垣島の人達が、サキシマハブ(というか、ヘビ全般)についてどう考えているのかわかって、参考になります。
(以下、順番は変えてあります)
 
琉球列島ではヘビは冬眠しません。冬でもサキシマハブが出没します。
へえ。
さすが沖縄はあたたかいんですね。
サキシマハブ被害の25%は、12〜2月の間に起こっているんだそうです。
 
・咬まれた傷口から口で毒を吸う時、虫歯があっても、毒を飲み込んでも大丈夫です。
ほうほう。
マンガなんかだと、吸い出した後吐き捨てる描写がありますね。
 
・近くに草村や森林がある地域では、たとえ見たことがなくても、サキシマハブがいる可能性が高いです。
・サキシマハブは、生まれた時にすでに毒を持っています。
・牙を取ったサキシマハブにも注意しましょう。牙は年に数回生えかわります。

なるほどなるほど……って、わざわざ牙を抜く人がいるんですか?
 
・サキシマハブは、近づいても逃げない場合がありますが、人を追いかけません。
ヘビにとって人間は、戦ってもエサにできないめんどくさい生き物ですから、踏まれたりしない限り、わざわざ襲ってきたりはしないんですよね。
 
・音が聞こえないヘビは、口笛に引き寄せられません。
あー。
「夜に口笛を吹くとヘビが出る」
って言いますよねえ。
 
・ヘビはジャンプできません。サキシマハブから1m以上離れていれば、攻撃範囲外です。
……ジャンプはしないだろ、普通。(ツチノコはする、という伝説はある)
 
・ハブ捕り器に入れるネズミは、遠くのサキシマハブまで呼び集めません。
……呼び集めると思ってる人がいるんですか?
 
・サキシマハブは、イオウを嫌いません。
人面犬は、ポマードを嫌いません」みたいな文章だな。
まあ、イオウを好む生物というのも稀ですから、臭いとか、多少は効果が……?
 
・サキシマハブは、現在いない島でも持ち込めば増えるかもしれません。いない島の砂も嫌いません。
 
なにか、風向きがおかしくなってきました。
 
・一度でも車でひいたり、たたいて大けがをさせたサキシマハブは死にます。
 
……………。
 
なんか、このパンフレットを見ると、石垣島の人々(の一部)の間で信じられてる「サキシマハブ」の姿って、すでに普通の野生動物を超越してると思うんですが。
 
試しに、以上の記述を元に、石垣島の一部の人達の間で信じられている「サキシマハブ」像を再現してみましょう。
 

レジェンダリーサキシマハブ

サキシマハブは、蛇の一種で、冬は冬眠します。
生まれたばかりの子どもは毒を持っていませんが、成体の毒は強烈で、噛まれた傷口から毒を吸い出した後、それを飲み込んでしまうと、毒が体内に吸収されてしまいます。
また、飲み込まなくとも、口内に虫歯があると、そこから毒がしみこんでしまうので注意が必要です。
 
サキシマハブは凶暴で、人間を見ると襲いかかってきます。
その際、ジャンプして飛びついてくるので、離れていても油断は禁物です。
 
口笛を吹くとサキシマハブを引きつけてしまいますので、生息地の周辺では注意しましょう。
 
サキシマハブはイオウを嫌うため、身を守るために有効です。
また、サキシマハブが住んでいない島で採取した砂を撒くと、サキシマハブは逃げていきます。
 
サキシマハブは超感覚的知覚を持っており、ネズミなどの獲物の存在を遠くから察知することができます。
これを逆用して、ネズミを使った捕獲罠を設置すれば、広範囲のサキシマハブを駆除することができます。
 
ただし、サキシマハブは、叩いたり、車で轢いたりしたくらいでは死なず、逃げた後やがて復活してきます。
不用意に傷つけて逃がすことのないよう、厳重な警戒が必要です。

……なんておそろしい生物でしょう。
 
というか、生物というより妖怪に近い。
 
思えば、私が住んでるあたりでも、たぶん昔はクマとかイノシシとか、「山神様」にまつわる伝説があったんでしょうね。
片鱗とはいえ、沖縄にはそういうものが生き残っているのかも知れません。
 
・いろいろなヘビを「ハブ」と呼ぶ人もいますが、正式にはまとめて「ヘビ」といいます。
あの宿舎の人の頭の中にあったのは、どんな「ハブ」だったのかなあ。