言語的な帝国主義。

人力検索から。

関西人は、なぜ東京へ来ても堂々と関西弁で話すのでしょうか?
他の地方出身の人は、大抵標準語で話すのに。。

http://q.hatena.ne.jp/1191162777

私は北関東在住なんですが、どうもこの質問は偏っているような気が。
 
なにか、
「東京に来ても方言で話す関西人という少数派がおり、その行動は不可解である」
という前提がありそうなんですが、そもそも「関西」というのは日本の半分ですから。(いや、面積とか人口とか教えてくれなくていいですが)
 
だから、この質問は、逆の視点から見れば、

関東人は、なぜ東京へ行くと大抵方言で話さなくなるのでしょうか?
他の地方出身の人は、堂々と方言で話すのに。。

……と言い換えることもできます。
 
「東京に来るとわざわざ標準語に直す関東人という少数派がおり、行動は不可解である」
という。
 
どっちも少数じゃないですよ。
 
なのに、なんか、回答者の中には、
関西人はそういう県民性を持っているんでしょう。
とか書いてる人もいてすごいですね。
 
関西は県じゃないぞ。
道州制導入という話は聞いてましたが、いつの間にか「関西県」ができてたんですか。
 
さて、質問者は、関西人が東京で標準語を話さないのを不思議がっているわけです。
では、関東の人間が大阪なり京都なりに行ったら、関西弁で話そうとするでしょうか。
 
答えは絶対Noだと思います。
 
なぜ? と問われれば、
「関西弁は標準語ではないから直す必要はない」
というのが、たぶん理由の筆頭でしょう。
 
それでは、標準語とは何か。
 
江戸時代までは、日本語に「標準」というものはありませんでした。
各地の方言が、それぞれ対等のものとして存在していたのです。*1
 
しかし、明治に入り、国民国家を建設するために、「国語」というものを整備する必要が生まれました。
 
そして、数ある方言の中から、東京山の手の方言を基礎に、「標準語」が生み出されたのです。*2
 
例えば「お父さん」「お母さん」なんて言葉も、明治時代に作られたものです。
(国語の教科書を作るに当たって、「おとっつぁん」「おっかさん」ではまずかろう、ということで発案された)
 
で、なんで東京弁が基礎か、と言えば、東京が首都だからです。
 
それ以前の江戸時代においても、幕府は江戸に置かれ、参勤交代の関係で、日本各地の大名も江戸弁を話す必要がありました。
(だから、そういう意味では「対等」とは言えない)
そういう意味でも、東京弁を標準語とする素地はあったわけですが。
 
ただ、いわゆる「標準語」というのが人工的に作られたものであり、その背景には(東京の政府による)政治的な恣意があった、ということは事実です。
 
そして、それよりさらに遡れば、日本の首府は京都でした。
関東弁なんかしゃべっていたら、「東夷」「山猿」扱いされたわけです。
 
そもそも、「東京都」という名前自体、「東の京都」ですから。
幕府が権勢を振るった江戸時代においてさえ、朝廷(京都)の文化的影響力は大きなものでした。
 
方言周圏論*3の考え方では、文化の中心地が日本語の中心地となるわけですが、江戸時代の日本では、京都と江戸という二つの中心を抱えていたと言われます。
 
だから、江戸時代、少なくとも「京都弁」と「江戸弁」は、対等の「日本語」であったわけです。
それ以前の千年間においては、圧倒的に「京都弁」が日本語の基礎でした。
 
江戸弁由来の日本語が、突如「標準」を名乗ってから、まだ150年足らず。
これは言語学的には「ごく最近」ということになります。
(いや、「この前の戦争」と言えば応仁の乱を指す、とかいう人にとってはもっと最近かも知れませんが)
 
ですから、「ごく最近」東が文化的に力を増し、政治的にも優勢になったからと言って、
「帝は今、ちょっと東京にお出かけしてはるだけやー」
とか言ってる人達にとっては、「標準語」が正当な日本語だ、とかいう意識は薄いのだろうと思います。
 
まあ、関西の人がみんなこんな歴史的背景を踏まえて話し言葉を決めてるわけではないとは思います(現状、関西の文化的中心地だって、京都だか大阪だかわかりませんし)。
しかし、それを言うなら、標準語を話す人だって、明治時代の国民国家がどうこうなんてことを考えて話してるわけではないですから。
 
上述のような歴史的経緯のために、関西では
「標準語に合わせないと」
という意識が薄い、といったところではないかな、と思います。
 
ともあれ、他人の方言を許容する、というのは、身近な異文化理解。
関東で関西弁を話す人を異端視するような狭量さは、結局身内でいがみあうだけでいいことはないですから。
どこの方言を話しても蔑まれず、普通にお国言葉で話せる日本だといいですね。
 
*余談。
高校時代、やって来た教育実習生(女性)が関西出身でした。
「合う人ごとに『関西出身ですか?』って聞かれるんですけど、標準語で話してるのになんでわかってしまうのかわかりません」
……と言ってるイントネーションがもろに関西弁。
 
「うわーかわいいー」
とか思った。(今風に言うと「萌え」?)
 
……でもあれ、ひょっとして「ボケ」ってやつだったのか?

*1:まあ、理屈としては対等。

*2:だから、「標準語」と「東京弁」は似て非なるものでもあります。
「ヒ」と「シ」の区別、なんて話は有名ですが。

*3:文化の中心地で新しい言葉が生まれ、徐々に地方へと広がっていく、という前提に立った考え方。
従って、地方の方言には、古い言葉が残っている、とされる。
沖縄方言には、(相当変化しているものの)平安時代の言葉使いが残っている、という。