いじめ対策について。

先週だけで、「自殺予告があったんですが該当児童はいませんか」FAXが3件。
 
しかも1件は、FAX1件の中に複数の予告状が入っていました。
それは何のお徳用パックですか?
 
さらに1件は、コピーが教員に配布された時点で
「本校には該当なしと判断し、教育委員会に報告済みです」
って書き込んでありました。
 
……迅速だな。
 
と思っていたら、なんでも、文科相には今でも毎日自殺予告状が舞い込んでいるんだそうですよ。
 
初回の予告状こそ全国放送でしたが、以後のものは、私たち末端の教員まで届く前に、かなりの数がブロックされているようです。
ひょっとすると、「伊吹文部科学大臣様」って子どもの字で書いて出した時点で、文科相まで届かないものもあるかも知れません。
 
*教訓
オオカミが来た!

 
いじめ問題について、学校の対応にも無論至らない点はあるだろうと思います。
しかし、こういう空騒ぎを起こすことが、学校や教育委員会の現状を改善することにつながる、と思っているとしたら、それは間違いです。
 
どんな教師でも、自分の担当するクラスにいじめがあるより、いじめがない方がずっと幸せな気持ちで毎日過ごせます。
 
だから、普通はみんな、いじめをなくしたいと思っています。
 
ですから、こういうことで文科省教育委員会や学校にいらん仕事を増やすと、その分各クラスへの対応が遅れてしまうだけです。
 
ただ、

  1. いじめに気付いていない
  2. 気付いているがなくす力量がない
  3. 自分も荷担している

などの事態も時々あるという。
 
いじめをなくすのは、教師の個人的な幸せのためだけではなく、その職業上の責務ですから、3はあってはならないことなわけですが、絶対にないとも言えない、というのは、以前書きました。
(「ちっちゃいけど おもいんだよ。」http://d.hatena.ne.jp/filinion/20060804
 
ある意味、福岡の事件を予言していたわけですが、あんまりいばれることでもないですね。
それ以前にも「葬式ごっこ」(昭和61年)などの例もあったわけだし。
 
個人的には、いじめというのは、社会のあらゆる組織に起こりうるし、誰もがいじめる側にもいじめられる側にも回りうるんじゃないか、と思っています。
それが、教員と子どもの間で起きてしまう、というのは、許されないことではあるけれど、あり得ないことではないのです。*1
 
いじめに荷担した教員への処罰はもちろん必要でしょうが、未然に防ぐ方策も大切だと思います。
 
私としては、ティーム・ティーチング……というか、副担任制が有効なんじゃないか、と思っています。
 
体罰が問題になった時にも言われたことですが、教員一人と子どもたちで対していると、カッとなって手が出る人がいる、と。
しかし、そばにもう一人大人がいれば、そういう可能性はずっと減るはずだ、というのです。
 
同じように、副担任制を導入することで、教師と子どもたちがうまくいかない、みたいな状況はかなり減るんじゃないかな、と思います。
もちろん、多面的な見方ができる分、学習指導や児童指導上の配慮もしやすくなりますし。
(って言うか、普通はそっちのメリットが主張されるわけですが)
 
まあ、現状で教員の増員を求めても通らないでしょうけども。
 
むしろ、子どもをいじめるような教員はどんどん処分しよう、って方向ですし。
 
仕方ないと言えば仕方ないけどなあ……。
 
ただ、いじめの実態が文科省に把握されていないのは、たぶんそういう風潮のせいだと思いますよ。
 
手元に「問題行動等調査」という資料があるんですが。
 
平成16年度の資料はネットでも見られます。
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/17/09/05092704/all.pdf(pdf注意。見る人は、項目「2−11」あたりを見てください)
 
これを見ると、平成16年度、全国の小中学校では、子ども1000人に1.7件のいじめが発生するのが平均です。
これに対して、全国でもっともいじめ件数の少ない福島県では、子ども1000人につき0.1件。
県内の小学校全体で3件、中学校全体で13件しか起きなかったとのことです。
 
手元にある17年度の資料ではもっと少なく、小学校7、中学校2、発生率は0.00%となっています。
 
素晴らしい。
 
素晴らしすぎます。
 
どう考えてもそんなはずはありません。
 
つまり、この資料は、
「どの県がいじめ対策が進んでいるか」
を表すものというより、
「どの県がいじめを報告しないよう厳しい規制をかけているか」
を表すものだと思います。
 
そもそも、全国平均の1.7件自体、低すぎる気もしますが。
 
つまり、いじめがある、と認めることが、担任や校長や教育委員会の無能力を示すものと評価され、ペナルティをこうむる状況にあるため、みんなそれを認めたがらないわけです。
 
いじめ問題じゃないですが、去年書いたこと。
(「本校における教育の情報化の進捗状況、及び、その調査方法に関するまとめ。」http://d.hatena.ne.jp/filinion/20051102
 
“パソコンを使って授業ができる先生は校内にどのくらいいますか”っていう調査を受けて。
結果を報告したら、
「割合をもっと増やして再度申告しろ」
教育委員会から指導されたわけですよ。私。
 
だから、いじめについても、教育委員会から学校へ「存在しないことにしろ」っていう圧力があるんじゃないでしょうかね。
 
いじめをたくさん報告すると、
「〜〜県はいじめ問題で全国ワースト〜位」
とかいう表現になるわけで。
これで教委から学校に圧力がかからない方がおかしい。
 
もちろん、校長から担任へ、とか、県教委から市町村教委へ、とか、いろんな段階でそれがあるのかも知れません。
 
もちろん、無能扱いされるのが嫌だから、教師が報告を怠る、ってこともあるんでしょうね。
 
しかし、こういうありかたはもちろん健全ではありませんし、子どもたちのためになりません。
 
「いじめはどのクラスにも起きうるという認識が大切」
……だって言うなら、起きた時に子どもたちをサポートする態勢があるといいんじゃないでしょうか。
 
いじめ(及びその前兆)を報告しても教委や担任の責任は問わず、いじめのある学級にサポート要員(副担任みたいなの)が派遣される、みたいなシステムだったら、たぶん要員が何人いても足りない状況になりますよ?
 
で、まあ、文科省は、いじめを半減させる、って目標を立てたんだそうですよ。
 
あはははははー。
 
我々教員は常時0%が目標ですよ?
 
数値目標も結構だけど、県教委に圧力を掛けないようにしつつ、正しく実態を把握して、いじめへの的確なサポートができる態勢を整えて欲しいと思います。
 
でも、いじめ対策の調査研究会議に香山リカ氏を入れたりしてる時点で、やる気が見えると言うより、やる気があるように見せてるだけのような気が……。
結局、なんだかんだいって「担任何とかしろ」になるんじゃないかと思います。
 
いじめ対策の最前線は担任なわけですが。
後方からの援護なしで、一人で戦うのはつらいよなあ。
 
……とはいえ、担任には、少なくとも学校内には支援態勢があるわけで。
一番孤立無援で辛い思いをしてるのは、いじめられてる子なんですよね。
愚痴を言ってもいられませんか。

*1:こんなことを言うと非難されそうなので念のため。
私は、教員によるいじめを
「やむを得ない」
とか言いたいわけではないです。
「殺人は人として許されないことだが、殺人事件が起こり得ないわけではない」
……って言うのと同じニュアンスだと思ってください。