飛んだ! ソーラーバルーン

なんて陳腐で安直なタイトルだ、と自己嫌悪に陥りつつ。
 
でも、素直な気持ちとしてまさにこんな感じなんですよね、こういう時。
 
それで、本年度、私が担当する実験クラブでは、ソーラーバルーン作りに取り組みました。
 
ソーラーバルーンとは、黒いビニールで作った大きな風船です。
これに空気を入れると、太陽光を吸収して内部の空気が熱せられます。
すると、熱せられた空気は膨張し、比重が軽くなるため、空に浮かぶのです。
 
ネタ本はこちら。(全6巻。ソーラーバルーンが載っているのは2巻)
ものづくりハンドブック 2 第2版
 
ただ、この本では、黒いポリ袋を切り開いたものを継ぎ合わせて作るようになっています。
が、科学クラブで今年作ったものとちょっと違い、農業用のビニール(よく、畑の畝をおおうようにしてかぶせてあるあれ)を使います。
 
黒マルチ、とかいうみたいですね。
 
これを使えば、ポリ袋を切り開く作業がいりません。
また、ポリ袋方式だと縦横を貼り合わせていたところ、横だけ貼り合わせればいいので、時間的にもずっと短縮できます。
貼り合わせているうちに曲がってしまって、うまくシート状にならない、みたいなこともありません。あんまり。
 
……と、このようにいいことづくめなんですが、最初はそこまで考えてやったわけではなく。
虚実市はゴミ袋は指定のものを使わないとならないので、大きな黒いポリ袋、というものがあまり売っていなかったのです。
あっても「厚手で丈夫」を売りにしているものばかりで、バルーン用としては不適(重い)。
 
それで、あちこちお店を巡り歩いている内に発見したのが黒マルチだったわけです。
まさに必要は発明の母。
 
……でも、ちょっと検索してみたら、ソーラーバルーンにマルチを使う、というのはわりとあちこちでやっていることみたいでした。
がーん。
独自開発のつもりだったのに。 
 
さて。
 
作業工程と、注意点をいくつか。
 
まず、黒マルチを買います。
世の中には「穴あきマルチ」という親切なものも売っているので、間違ってそれを買わないように。
 
店員さんに尋ねたら、どれが穴あきなのか把握してなくてピンチだったりしますがなんとか乗り切って下さい。
 
次に、サイズを決定します。
 
ていうか、マルチを買った時点でサイズは決まってるわけですが。
 
ただ、テトラパック*1にする都合上、貼り合わせた際の縦横の比が√3:4になるのが望ましいので、それに近くなるように考えます。
 
まあ、要するに、全体を7等分して長方形に貼り合わせるのか、8等分にするのか、ということですが。
貼り合わせる際に少し重ね合わせるので、縦がやや短くなることに注意。
 
といっても、それほど厳密に考える必要もないですけど。
 
あとは、体育館にマルチを広げ、子どもたちと一緒にひたすらセロハンテープで貼り合わせ作業。
 
マルチの厚みは0.02mmしかありませんので、上に乗る時は靴下で。
どこが継ぎ目か見分けづらいですが、間違って張ったテープは決してはがそうとしないこと。破れます。
 
設計図

 
上の図のような、だいたい√3:4の長方形のシートができたら、二つ折りにします。(左右の青い辺を重ねるように)
その後、短辺(青い線)と、長辺の一方(赤い線)を、テープで閉じて、大きな袋状にします。
 
その後、もう一つの長辺を、半分ずらしてとじます。
 
……ここ、説明が難しいんですが。
 
二つ折りにした状態では、ピンクの点は、左右の角に来ています。
 
その一方をずーっと引きずって持ってきて、ピンクの点が二つ重なるようにしてとじ合わせるのです。
 
子どもたちがイメージをつかみやすいように、製作に入る前に紙で模型を作って見せるといいです。
模型、と言っても、折り鶴とかを折るよりずっと簡単ですし。
 
とじる時、空気を入れる口になるところを少し開けておきます。
強度を増すため、また、目印になるように、口の周りにガムテープを貼っておくと良いです。
 
これで完成。
もっとも、貼り合わせるのに失敗しているところとか、作っている途中で穴が開いてしまったところとかが必ずありますから、それを点検します。
一度ふくらませてみると良いです。
ふくらませたバルーンに顔を押しつけて反対側を見ると、穴が開いているところが明るく見えるのです。
懐中電灯を中に入れるといい、という話もあるんですが、試していません。
 
さて、揚げる時は、天気が良く、風がない日を選びます。
 
今年は天候が思わしくなく、夏休み前に作ったバルーンなのに、揚げるまでに何ヶ月もかかってしまいました。
 
朝は晴れていて「いけるか?」とか思ったのに、昼休みになったとたんに曇ってきたり。
なぜか、私が幼稚園に行っている間はすごく天気が良かったり……。
 
俺が悪いのかー!
 
誤解されやすいことですが、暖かい日である必要はありません。
内部と外部の気温の差が必要なわけですから、太陽さえしっかり出ていれば、むしろ気温が低い方が望ましいくらいです。
 
これからの季節だと太陽光は衰えますが、えーと、南中高度が低いことの影響はバルーンは受けないし(たぶん。地面に平行なわけじゃないから)、冬が寒いのはむしろ日照時間が減るせいだから、大丈夫だと思います。*2
仮に受け取る熱量が一緒とすると、外気温が何度の場合でも、内部の気温が上昇する度合いは同じのはずです。
で、シャルルの法則から考えると、外気温が35℃で内部の気温が45℃の場合より、外気温が15℃で内部の気温が25℃の場合の方が浮力は大きくなるんじゃないでしょうか。ちょっとだけ。
 
ていうか、なんか、夏の暑い日にやると、熱でビニールが柔らかくなるような気がしますね。
場合によっては致命的。(後述)
 
空気を入れているところ。

今回、空気を入れるのには、屋外用の強力な扇風機を使いました。
野球部(鱶沢バースト)が買ったのを勝手に。
 
実は、バルーンを作るのは今年で3回目なんですが、去年までは普通の扇風機を使いました。
でも、今回、過去2回よりも大きなマルチを買って、二回りくらい大きなバルーンを作ったので。
見ての通り、ちょっとした建造物くらいの大きさがあります。
 
……で、9月初め、それに一杯に空気を入れて揚げたら、内圧でバルーンが裂けてしまって。
泣く泣く、補修してやり直したのです。今年は。
子どもたちもテンション下がりまくり。
 
欲をかいてはいけませんな……。
 
そもそも、空気が膨張するので、あまり一杯に空気を入れるのはよくありませんし、大きな物を作ると体積に比例して各部の負担が増しますので、危険です。
 
ちなみに、去年のバルーンの写真はありません。
 
なぜというに、係留しているビニール紐を鉄棒に結ぼうとしてうっかり手が滑り。
あっ! っと思った時にはバルーンは空の彼方でした。
 
いやー……。
 
あの時のクラブの部員には、未だに
「あのバルーン、今どこに行ったんでしょうね」
とか言われます。
 
「今頃はアメリカかな?」
とか答えるんですが。
 
その時は、すぐに校長先生と教頭先生に連絡して、直ちに駐在所に電話したんですけど。
駐在さんに言ってどうなるもんでもないからなあ。
 
「K村先生、バルーンに学校名とかかいてないでしょ?」
「ありませんねえ」
「いやー、万一高速道に落ちて事故起こしたりしたら大事だからさあ。 落とし物に名前を書かない方がいいってこともあるんだねえ」
 
落とし物というか飛ばし物というか。
 
注意点:ひもをつなぐ時には、必要な長さに切ってから結ぶのではなく、リールのまま結んで、しっかり結んでから切ること。
 
リールのままなら、うっかり手を放しても大丈夫ですから。
「凧の糸は全部は出すな」ってやつですね。
 
一昨年度はそういったことはなかったのですが、風にあおられてあっちへ行きこっちへ行き。
校庭の桜にひっかかりそうになったり校舎の屋根にひっかかりそうになったり。
 
その反省もあって、今回、補修したバルーンを揚げるにあたっては、紐をバルーンの三つの頂点に一本ずつ、計三本つなぎました。
 
大型のバルーンでは浮力が強く、紐を結んだ部分に負担がかかって破れてしまう恐れがありますが、これを三本にすれば、負担が分散するのでその可能性が低くなります。
また、バルーンを頂点に、三本の紐が四面体の辺を形成するように揚げれば、風の力と浮力・張力がバランスして、極端にあっちこっちへふらつくこともないはずです。*3
 
風がよほど強くなければ。
 
お察しの通り、揚げたとたんに風が出てきてですね。
 

空気がかなり控えめに入っているので、テトラパックだかなんだかわかりませんね。
 
「緑ひっぱって! ひっぱって! いや、少しづつ少しづつ!」
「先生、木にひっかかる!」
 
ひっかかりました。
 
でも、しばらくあれこれやっているうち、穴が開くこともなく無事に再起。
 
「緑は鉄棒、ピンクはサッカーゴール、黄色は朝礼台に結ぼう」
「あーっ、先生ーっ!」
 
紐が切れました。
 
マルチが破れるとか、貼り合わせたところがはがれるとかいう可能性は想定してましたが、よもや紐が切れるとは。
 
三本つないであったのが幸いでした。
 
本当は、昼休みに揚げて、放課後までそのままにしておく予定だったんですが、放っておくと残り二本が切れて、再び風船爆弾アメリカ本土空襲なことになってしまいかねないので、あきらめて昼休みで下ろしました。
 
「先生、今回は成功? 失敗?」
「いや、揚がったんだから成功だろう」
 
でも、部員に「成功なの?」って聞かれてしまう時点で失敗かも。
 
下ろした後、一ヶ所破いて、「みんな、中に入っていいよー」。
低学年の子たちも喜びました。

 
……でかいカマキリの卵みてえだな、とか思ったのは秘密。
 
ちなみに一昨年のはこんな感じ。
 

 
テトラパック」と呼ばれるゆえんが分かろうかと思います。
 
ちなみにこの年は、揚げたまま午後の授業に突入したんですが、空気を入れすぎたためか一ヶ所大きな穴が開いてしまって。
だんだん高度が下がってしまって、残念でした。
 
……とまあ、なかなか「今年は大成功だ!」という年がないんですけども。
 
来年こそ、三点係留方式で安定して揚げてみたいと思います。
 
「一体浮力が何kgくらいあるのか?」っていうのも、非常に興味のあるところで。
ヘルスメーターも持ち出してるんですが、まともに計れたことがないですね。
夢としては、バルーンをいくつかつなげてブランコをつるして、体重の軽い子なら乗せたまま浮き上がるようなものが作りたいんですが。
 
「紐が切れました!」
「やべえ!」*4

*1:要は正四面体。でも、なぜか「テトラパック型」と説明をしている人が多い。

*2:「南中高度が低くなる=太陽光が大気の中を通る距離が長くなる」だから、大気圏内で減衰する率は高くなるんだろうと思うんですが、その辺の程度は私にはよくわかりません。詳しい方がいたら説明求む。

*3:今にして思えば、このあたりの揚げ方についても縮小模型で示せば良かったですね。

*4:風船爆弾に人間を乗せてアメリカまで行く計画があったそうですよ?
食料を積めないことに気付いて途中でやめたらしいけど。