怖いもの見せたさ。

おすすめゲーム紹介、今回は「零」。
行方不明の兄を捜す少女が、撮影することで霊の力を弱めることの出来るカメラを片手に、無数の怨霊が潜む打ち捨てられた屋敷に挑むゲーム。
 
例によって古い。
 
さて、人間は理性の動物ですが、しかし理性だけで割り切れるものではありません。
 
例えば、私が科学合理主義者であって、霊魂だの死後の世界だのの存在を全く信じないにもかかわらず、怪談が大の苦手であるようなものです。
 
……苦手なんです。
 
「怖いもの見たさ」というのもあるにはあるんですが、それで「怖いもの」を見た結果、夜になって後悔する、というのを幼いころから繰り返した結果、ずいぶん前に「怖いもの見たさ」を克服することに成功しています。
えへん。
 
恐怖は克服できません。
 
小学生のころ、一度心霊写真集とかを見てしまうと、その後何週間も一人でお風呂に入ったりするたびにどきどきするわけですよ。
うっかり夜中に目を覚ましてしまうと、「目を開けて目の前に“何か”がいたらどうしよう」とか思って、目を開けられないという。
 
そんなわけで、今でもホラー映画のCMが入ると目をそらし、レンタルビデオのホラー・SFコーナーには近寄らない、という私ですが、弟は私とは全然違います。
 
いつぞや、私と弟が二人とも実家に帰省していた時の会話。
 
私「……だから、ホラーとテラーというのは違うわけだよ。奇怪な怪物がバーンと出てきて『Boo!』ってのは“テラー”。 部屋の外で、ごとっ、とか音がして、おそるおそるドアを開けるけど何もない。……そのとたん、今度は背後でガサガサっ!……みたいなのが“ホラー”。 ちなに、血しぶきが飛び散ったりして『EEEK!』みたいなのは“スプラッタ”」
 
ちなみに私どれも見たことがないんですが。
これはTRPG関係の本で読んで自己流に理解したものなので、他所で話すときっと笑われますね。
 
弟「んー、“テラー”と“スプラッタ”はともかく、“ホラー”ってのがよくわかんないんだよね。 何も出てきてないのになんで怖いの?」
私「えー。 例えば、夜の墓場とか、何も出てきてなくても怖くない?」
弟「いや……。 むしろ、墓場は散歩コースなので。 静かだし」
 
そりゃ静かだろうが。
 
私「そーかー……。 ああ、そうだ。 聞けば、『零』というホラーゲームがあってね。 続編も出ているし、どうやらかなり秀逸らしいよ」
弟「へえ。 それは興味深い」
 
で、買ってきました。
 
弟「……本当に買ってくるとは。 んー、じゃあ、やってみようかな」
私「ああ、待って」
弟「何?」
私「私は外出する。 間違って画面を見たりすると大変だから。 帰ってきたら感想を聞かせてね」
弟「…………」
 
……そして小一時間後。
 
帰宅すると、母が、
 
「ああ、なんか、あの子が様子変だよ?」
「へ?」
 
二階に上がると、弟が顔面蒼白になっていました。
 
私「……どうした」
弟「あああ、あれは、だだ、だめだ。 ああれは、こここわい……」
 
奥歯ががちがちと。
まさに歯の根も合わぬ状態。
 
聞けば、日中、ドアもベランダに出る窓もなにもかも開け放した上、テレビ(14型。片手で持てる)から充分離れて、その上音声を消してプレイしたのだそうですが。
 
弟「あれは、だめだ。あれは、おそろしい……」
私「どのへんまで行ったの?」
弟「主人公のお兄さんが館に入るとこ」
私「……それはひょっとしてプロローグじゃないのか?」
弟「うん。 操作説明とかがいちいち出てた」
私「プレイ時間は?」
弟「15分くらい」
私「15分て。 それでもうそんな状態なのか……」
弟「うん……。 幽霊、出てくるまでが怖いんだよ……。 階段を上ったところで、出た! ……かと思ったら、なんだ大きな鏡か……とか。 なんか、古い和室に出しっぱなしになってる雛人形とか……。 いざ出てきちゃうと、むしろポリゴンポリゴンしてるからそんなに怖くないんだけど。むしろ、『よし、やっつけるぞ!』みたいな感じでほっとするくらい。 ……音を消したから、むしろ怖かったのかな」
私「いや。あのゲームは、音声もかなり効果的に“ホラー”らしいぞ」
 
と、そこへ母が
 
「お風呂先に入らない?」
 
私「どうする? 先に入る?」
弟「うう……、あのさ、脱衣所からお風呂場まで、開けっ放しにして入っちゃ駄目かな」
 
弟は大学院生です。
 
私「……一緒に、温泉の大浴場まで行くというのはどうか」
弟「ああ、それがいい。 あそこなら安全だ」
 
うちの風呂にどんな危険が。
 
……そして、「零」は即日中古屋へ。
 
プレイ時間15分。
 
私「結構いい値が付いたよ。 やっぱり、人気があるところには人気があるんだよ」
弟「気が知れない……っていうか、兄さんは一度もプレイしないの?」
私「うん。 ていうか、プレイ画面はおろかBGMを聞く気すら全くなかったから」
弟「…………」
 
というわけで、おすすめゲーム「零」。
 
ホラーが大好き、という方、あるいは、ホラーって理解できない、という方におすすめです。
 
私は一度も画面を見ていませんが。