木っ端役人的たわごと。

先日、近隣の市教育委員会の人と話をしました。
 
つまり彼女なんですがそれは今回関係ないのです。
 
えーと、非常勤講師について。
 
彼女が勤務する真倉市(仮)でも、講師を採用し、各学校に派遣しています。
ティーム・ティーチング*1を行うのがその主たる目的です。
 
しかしながら、教育委員会の指導主事がぼやくには、学校側の対応に問題がある、というのです。
 
具体的に言うと、学級内にいるADHD注意欠陥多動性障害)の子の指導を講師に任せきりにして、担任は他の子の授業を進めている、という状況。
 
市教委としてはそういうことのために派遣したのではないし、それでは講師の負担が大きすぎます。
 
主に精神的に。
 
まあ、私自身はそういう子の対応をしたことはなく、他の先生の話を聞いたことがあるだけなんですが。
 
……なんて言うと、「自分では経験がないくせに」とか、「その先生は対応できていたわけじゃないか」とか言われそうですが。
 
でも、そういうベテランの先生たち(複数)をして、「あの時は大変だった……」と言わしめるような状況なわけですよ。
 
そういう、座って授業を受けるだけの集中力がなくて、うろうろ立ち歩いてきゃあきゃあ騒ぐ子と、毎日毎日向き合って適切に対応するためには、障害に対する理解と、いかに対応すべきかに関する知識と経験が必要だと思います。
正規の教員でもないのにそれを任せきりにされては、そうとうつらいはずで。
 
聞けば、なんとADHDの子と二人きり、別室で授業なんだとか。
……それはつらそうだ。
 
「市派遣の講師というのは、本来の教員の定数には含まれていない職員なんだから、そういう配置をされては困るんだよなあ」
……というのが、指導主事の言だとか。
 
「ただ、こっちは校長先生より若いし……『現場の状況もわかってないくせに、若造が偉そうに』……とか、思われてるんだろうなあ……」
だそう。
 
うむう。
 
指導主事の言うことは確かによくわかります。
 
ですが、本校にも講師は派遣されてきていまして。
 
すると、別室指導でこそないものの、やっぱり、つまづきがちな子にべったり張り付いて個人指導をするのがその主な仕事になってしまっています。
隣の学級には、「知能の発達に障害があります。普通学級で対応できるレベルではありません。通級指導でも無理」と診断された子がいて、そこでは講師はその子にべったり。
 
本来のティーム・ティーチングとはそのようなものではなく、T1・T2が授業内で役割を分担し、協力し合って授業を組み立てるものなのですが、実態はこの有り様。
 
理由はいくつかあります。
 
まず第一に、現に「個別指導が必要な子がいる」という実状です。
 
専門機関で、「個別指導が必要です」「他の子と同じことをやるのは困難なので、スモール・ステップ式の指導を別に行う必要があります」……とか言われても、専用の教育内容を編成するには時間も労力も必要だし、そもそも個別指導する人員が足りません。(1人分の教育計画なら、30人分の計画の1/30の労力でできるか……というと、もちろんそんなことはないわけで)
 
……と、このように「人員が足りません」と言っているところに、のこのこ非常勤講師がやってくると、ちょうどいいとばかりに個別指導要員にされてしまうのです。
 
専用の教育内容を作る余力はないけど、個別指導要員がいるだけでもまあいいや。
 
よくねえよ。
 
よくはないんですが、件の指導主事が言うような、
「担任がADHDの子を見て、残りの子を講師が授業すればいい」
……というのも、それはそれで問題が……。
 
もう一つの問題は、非常勤講師の勤務時間にあります。
 
ティーム・ティーチングをきちんとやるためには、どのように授業を進行し、T1・T2がどこでどのように動くか、二人でしっかり計画を立て、十分な打ち合わせをする必要があります。
 
一方、非常勤講師は、市町村にもよりますが、勤務時間が9:00〜15:30、とか、他の職員より遅く来て早く帰ります。(その分給料が安い)
で、学校にいる間はずっと授業が入っていますし、たまに空き時間があっても、その時こちらが空き時間とは限らない。
 
となると、授業の打ち合わせをする時間がないのです。
放課後にはもう帰ってしまっているし。
 
当然、しっかりした計画のもとにティーム・ティーチング、なんて不可能。
その結果、「とりあえずあの子の面倒みてあげて」状態になるんだと思います。
 
問題の学校の職員も、その状況がいいとは誰も思っていないと思います。
 
その子の状況が詳しくはわかりませんが、推測するに、その子が教室にいると他の子も学習ができなくなるようなレベルなのではないかと。
 
だから、その子のことを考えて一対一の学習にしているのではなくて、言ってみれば、他の子の学習を保障するために隔離している、と表現した方が適切な状況なんじゃないでしょうか。
 
そういうレベルの子が普通学級にいる事情はわかりませんし、そもそも「ADHD」というのが正式な診断名なのかどうかもわかりません。
 
ただまあ、保護者の方の意向として、普通学級で、ということがあるのかな、と想像はします。(でも、それが本当に「普通学級に所属している」という状況なのか、というと、かなり疑問ですが……。 
むしろ、素人がやっている無許可の特殊学級みたいな状況ですから。
それを、保護者は知っているのかいないのか……)
 
うーん。
 
件の学校の対応は極端ですし、非難されても仕方ないと思います。
でも、似たような事例はきっとたくさんあると思います。
そして、それは学校の怠慢とかが原因ではなくて、一つの苦肉の策ですから、学校の努力とかでなくしていくのはなかなか難しいかも知れません。
 
結局の所、十分な専門的素養がある人材が必要なのに、それが配置されていない、というのが問題の第一でしょうか。
 
しかし、最近の動向を見るに、特別支援教育がこれから拡充されるとはあんまり思えません。
むしろ、歳費削減のために真っ先に削られていきそうな勢い。
 
なんというか、政府は
特別支援教育をいくら充実したって、その中からビル・ゲイツが出てくることはないんだし」
……みたいなことを考えてるんじゃなかろうか……とさえ思えます。
 
もちろん、「全て国民は、等しく、その能力に応じた教育を受ける権利を有する」んですから、そういうのは筋が違うんですけども。
 
それから、やっぱり、子どもの就学について、もう少し学校にも発言権があってもいいのかなあ、と。
前述した隣のクラスの子ですが、保護者と連絡を取ろうにも一向にそれに応じてもらえず、担任は苦労しています。
専門家の診断を受けるにしても、保護者が同席を許可しない限りは、保護者を通して話を聞くしかないし。
 
……なんてことを書いてみて思うんですが、これって、「人員をよこせ予算をよこせ権限をよこせ」って、タチの悪い官僚の言い分そのものなんですよね。
 
やっぱり、とりあえず今あるものを有効に活用して現状にあたる姿勢というのも大切ですよ。
 
……というわけで、とりあえず今いる非常勤講師が便利に使われるというオチ。
 
(もちろん、いつまでも「個別指導専任」ではまずかろう、という話は本校にもあって。
H教諭の提案で、講師の先生には、自分がT1として授業を行う単元を一つ選んでもらい、夏休みを利用して教材研究をしてもらうことになりました。もちろん、任せきりではなくて相談には乗るわけですが。
そうした方が、教職を目指すに当たって良い経験にもなるし、採用試験の面接でも売りにできるだろう、ということで。
加うるに、校長からは、我々も夏休みを利用して、ティーム・ティーチングのあり方について研修するよう指示がありました)

*1:要するに、教師二人で教える態勢。