たのしかったキャンプのおもいで

今から数年前、私がはじめて教員採用試験に合格して、初任者研修を受けた時の話。
 
教員は、「教育公務員特例法」の規定により、一年間の初任者研修を受けることになっています。
 
これは、採用された自治体毎におこなわれるもので、教育活動全般に関する理論的・実践的な講話・演習や、「地域研修」として、ローカルな自然や史跡などに触れる研修が行われたりします。
 
そして、地域の教育風土・教育界内部の風潮にも左右されます。
 
私が採用されたのは、北海道にある紫矢別町(むらさききゃべつちょう:仮名)でした。
 
以前にも書いたとおり、北海道は広島県に次いで職員団体の力が強いところであるらしく。
そして、道教組(北海道教職員組合)は、初任研の存在そのものに反対なのです。
 
なんか、
「初任研とは、国家権力が、純真な新任教員にイデオロギーを注入し、体制に従順な教員を作り上げるためのシステムなのだ!」
みたいな。
 
へえー。
 
ちなみに、当の初任者達は、
「でも、こういう研修なしでいきなり教室にほっぽり出されても困っちゃうよねえ」
「困ることもあるもんねえ」
……みたいな感じで。
 
「新任教員の教育は、職場の教員同士による横の連帯の中でなされるべきものなのだ!」
 
……まあ、職場の先生方もみんな忙しいしねえ。
 
でまあ、そんな土地の初任研ですから、他の土地の初任研とは違いがあるかと思います。*1
 
初任研で、特に講話を聞いて痛感したことは、
 
・年輩の講師より、若い講師の方がしっかりした講話をする
 
ということでした。
 
まあ、年代的に近いから共感できる、という面もあるんでしょうが、年輩の、偉そうな肩書きの人の講話って、たいがいどうでもいい内容なんですよ。
 
なんか、日本の中小企業も、自分たちが独自に開発した技術をもっと積極的に特許を取っていかないとならない〜、とか。
 
まあ話はわかるけど、それ、NHKの「クローズアップ現代」かなんかで見たことをそのまましゃべってるだろ。
 
「先生方の話を聞いていると、よく、『雑務が多くて授業や子どもたちの相手に力を集中できない』などということを言いますが、これは大変けしからん。 教育に関係する仕事一つ一つが、子どもたちにつながっていくのですから、教員の仕事に雑務などないんです!」
 
うーん。
 
いや、「教員としての心構え」はもちろん大事です。
でも、心構えの話だけなら、教育界と無縁のそこらへんの人にでもわりとできることなんで。
もっと専門的なお話を伺いたい。
心構えにしても、法律を下敷きにして話すとか実体験を元にするとか統計を根拠にするとかさ。
 
思うに、年輩の講師は、「立場上、あの人に話させないわけにいかない」……みたいな、肩書きで呼ばれている部分が大きいんじゃないかと。
だから、「〜〜小学校の現職教員」みたいな立場で呼ばれてくる若い講師の方が、講師としては有能なことが多いんじゃないかな、と、思います。
 
まあ、これは「講師としての」有能さ、ということであって。
決して、研修担当者が教育委員会事務局員として無能だった、とかいう話ではないです。
 
……ほんとですよ?
 
さて、ある時、「野外活動実技研修」というのがありました。
 
学校行事でキャンプ等を行う場合、児童生徒を指導するために、様々な技術が必要とされます。
 
マッチでかまどの薪に火を付けたり、飯ごうでご飯を炊いたり、大鍋でカレーを作ったり、キャンプファイヤーの薪を組んだり、キャンプファイヤーの周りで行うイベントを計画したり実施したり、寝袋を広げたりたたんだり、ロッジで安眠したり。
 
そこで、新任教員を管内のキャンプ場に集め、このような技術を実地に訓練する研修を行うのです。
 
……待て。
 
それは研修じゃなくてただのキャンプじゃないのか。
 
指導主事のあいさつ。
「えー、初任者の皆さん。今日は、特に夜間、初任者同士、様々に親睦を深める機会があると思います。
飲み物、食べ物等、管理所でも販売していますが、そこでは売っていない飲み物を、キャンプ場外に買いに行くようなこともあるかもしれません。
しかし、先生方、今日は勤務日で、今こうしている間にも、先生方には給料が支払われているわけです。
ですから、勤務時間中には、アルコール等はもちろん、キャンプ場から出ることも控えて頂けるようお願いします」
 
……学校行事で酒は飲まないんじゃないか?
 
「また、日程表にあるとおり、消灯は20時です。20時になると、キャンプ場そのものの送電が止まりますので、そのつもりで。
加えて、21時になると、キャンプ場の入り口が閉まりますので、外に買い物に行かれる先生方は、それ以前に戻られるようお願いします」
 
「先生」と呼ばれてはいるものの、どうやら、タチの悪い中高生並みの扱いを受けている初任者一同。
 
ともあれ、昼食用のカレー作りを開始。
 
「どの班のマッチ箱にも、マッチは3本しか入っていません。 マッチを3本使ってもたきぎに火がつかなければ、昼食は食べられません」
 
うげ。
 
まあ、私のいた班には、手慣れたのがいて楽勝でしたが。
 
ちなみに、手慣れたのがいない班は、よその班から火のついたたきぎをもらって点火してました。
 
さて、そんなこんなで日程はつつがなく消化され、キャンプファイヤー
司会進行は、事前に教育委員会から指名された初任者が行いました。
 
「『燃えろよ燃えろ』を歌いまーす」
「先生方、一人ずつ自己紹介をお願いしまーす」
 
普通のキャンプみたいだな。
 
で、「今日の日はさようなら」の合唱も終わったところで、別の初任者から全体に連絡。
 
「先生方、これから部屋に戻ってグループ毎に親睦を深めると思うんですが、少ししたら全体で肝試しを行いますので、9時になったらこの営火場に集合して下さい」
 
……ほんとにただのキャンプじゃないのかそれは。
 
そんなわけで、9時まで部屋で若者同士酒を酌み交わしたりした後(私は酒は苦手なんですが)、営火場に集合。
男女ペアになって、キャンプ場周辺の林道を歩いて一周してきます。
 
特に何があるわけでもないコースで、一つ前に出発した班の話し声を頼りに進めば迷うこともないんですが。

  1. 途中で、一つ前に出発したはずの班が道を戻ってくる。
  2. 「私たちのさらに前にいたはずの班が、声が聞こえなくなっちゃって。どうも、違う道に入っちゃったんじゃないかと思うんです。私たち、本部に報告して来ます。先に行って下さい」
  3. 心配しながら先に進む。
  4. 物陰から「さらに前の班」の連中が奇声を上げながら飛び出して驚かす。

……というイベントがありました。
 
うはは、やっぱりなー、とか思ったら、私とペアの人は素で驚いてた。
 
で、役割を交代して後の班を待ち受けるわけです。
 
さて。
 
しかしながら、この肝試しには不思議なことが一つありました。
 
それは、
 
「なぜ、21時過ぎたら外出するな、という指示を誰も憶えていなかったのだろう」
 
…………。
 
いやー。
 
コースの最後、車道に出て、キャンプ場入り口に向けててくてく歩いているところで、教育委員会の車が待ち受けていてですね。
カンカンに怒ったえらい人たちが乗っていて。
みんな怒鳴られました。
 
研修の時の態度は、勤務する学校長にも報告されます。
それに、教員は採用されて一年間は「試用期間」扱いで、不祥事を起こすとあっさり解雇されてしまいます。
そんなこともあって、特に女性の初任者は、相当落ち込んでいたみたいです。
 
私はわりと楽観的でしたけど。
 
だって、肝試しに参加した連中を全員解雇したら、今年の初任者がいなくなっちゃうんですから。
団結権
 
みんなで渡ればこわくない、とも言う。
 
で、その晩、肝試しの後で性懲りもなく酒を飲む我々。
 
そしたら、教育委員会の一番若いのがバンガローにやってきて、
 
「そう落ち込むなよ先生ら。いや、オレはあれはいいと思ったよ。そうやって自分らで計画してやれる行動力がある方がむしろ偉いんじゃないか」
 
ていうか、あんまりそつのない進行だったんで、てっきりあらかじめ研修計画に入っていた内容だったのかと思いましたよ。
 
「今日はさ、なんか本部に教職員組合の偉いさんが来てさ。『そういえば、日程表ではもう消灯時間ですが、初任者はどうしていますか?』とか聞いたわけよ。
それで一応、もう寝るように声を掛けに行ったわけさ。
どうせ全員寝てなんかいないだろう、ってのは、本部のみんなも承知だったんだけど。
そしたら、どのバンガローにも誰もいなかった、ってわけでな」
 
それは……仰天するだろうなあ。
タチの悪い中高生。
 
「まあ、そういう面子もあるから、あんなに怒ってるわけよ。
結局、ああいう立場の人はあれこれ言うだけが仕事でさ。
『初任者研修担当』なんて、あの年齢的としては立場低いから特にカリカリしてるんだよな。
オレも先生らに立場近いから共感するよ。
今日なんかも、マッチ箱いちいち開けて3本だけマッチ入れたりするのがオレの仕事なんだよな。
思いつくのはあの人で」
 
……それって、「雑務」ってやつじゃないのか。
 
やっぱり、年齢的に近い人の話の方が共感できる、という面はありますね。
 
ああ、その。
 
北海道の教員がみんなこんなだ、と思われませんように。
これは、紫矢別町がある管内だけの話ですし。
 
それに、あのえらい人も、
「こんな初任者は初めてだッ!」
……って言ってたしな。

*1:法の規定によると、一年以上教員として勤務した経験があれば、初任研は免除されるのです。つまり、すでに受けているわけだから。
ですので、北海道で二年間勤務した私は、関東で再度採用された際には初任研を免除されたのです。
だから、当地の初任研がどんな様子なのかわかりません。
地域研修など、何度かは参加しましたけれど。
初任研は、新採用教員同士が知り合う場でもあるので、ちょっと寂しいです。