政治の季節(1)〜学校統廃合編〜

本校周辺の政治的な(……というほどのものではないが)状況について、私に見えている範囲で記録しておきます。
 
いつか書こうと思っていた野球部の話と、もう終わったと思っていた学校統合の話。
 
この二つは、少し関係しているのです。
 
本校、鱶沢小学校(ふかざわしょうがっこう:仮名)から数キロ離れたところに、卯崎小学校(うざきしょうがっこう:仮名)という学校があります。
どちらも過疎地域にあり、児童数減少に悩んでいます。
 
昨年、卯崎小学校の野球部の保護者から、卯崎小の子どもを、鱶沢の野球部で一緒に練習させてほしい、という申し込みがありました。
全校児童は鱶沢小よりもやや多い卯崎小ですが、高学年男子の数が少ないのです。
(このへんは確率論で。一学年が100人もいれば、男女どちらかが三分の二を占める、なんてことは滅多に起きませんが、一学年が10人を切ると、男ばっかりとか女ばっかりという学年が出てくるのです)
 
かろうじて9人いるものの、市の学童野球連盟にチームとして登録するには、9人では不足なのです。
 
ところが、鱶沢の野球部側では特に異論もなかったのですが、どういうわけか申し出てきた側の卯崎の保護者が大もめ。
 
「何も鱶沢くんだりまで行くことはない」
「うちの子は野球をやりたがっている」
「9人いるんだからやれないことはない」
「公式試合には出られない」
「練習試合だって構わない」
「公式試合に出ないチームと練習試合をしてくれるチームなんかない」
「それは頼み方次第だ」
 
鱶沢・卯崎の両地区は、峠を一つ挟んでいるだけで、明治以来、同じ県の同じ市なのですが、江戸時代は別の藩同士だったとかで、なにやら妙な対抗意識があるらしいのです。(藩としての格から言うと鱶沢の方が上で、現在は卯崎の方がやや発展している。……どっちも過疎地だけど)
……正直、今の子どもの未来を考えるのが第一で、大政奉還前のことなんか今更どうでもいいと思うんですが……。
 
「〜〜ゆかりの地」とか、「〜〜藩〜百万石」だの、過去の栄光にこだわるのは、現在ではたいしたものがない証拠だと思うんですよ、私は。
東京都が、「徳川300年の城下町」だって威張り始めたら、東京はおしまいだと。
 
……それとも、私が現地の住人じゃないからそう思うんでしょうか?
 
結局、卯崎の保護者は、一方に野球に熱心な保護者たち、もう一方に、強硬に反対を唱えるリーダー格の保護者と、それにあえて逆らう気もない「それほど熱心ではない保護者」たちに二分してしまい。
 
そして、前者が、鱶沢野球部入りを強行してしまったために、卯崎小野球部はチームとして立ちゆかなくなってしまったのです。
 
後者の側にも、野球好きの子はいたわけですから、ずいぶんな話です。
 
鱶沢の野球部顧問、H教諭は、間に立っていろいろ調整をはかったのですが、最終的には卯崎側で決めるしかないことですし、卯崎小側では、「保護者が決めることだ」という校長の方針であまり口を出さなかったらしく。
あまり熱心じゃない校長先生みたいですね。
 
ともあれ、鱶沢野球部は、それまでコーチとして指導に当たってくれていた地域の保護者に、卯崎小の保護者も迎えつつ、チーム名も新たに「鱶沢バースト(仮名)」として、練習を始めたわけです。
 
さて、野球部が合同(……かな?)で活動を始めた時、内外から言われたのが、
「一足先に統合だね」
でした。
 
というのも、前述のごとく鱶沢・卯崎とも過疎地域で、児童数も減少傾向。
なにぶん、人の出入りの少ない土地ですから、今後児童数がどうなるか、5年先まで分かってしまうのです。(校区のどこに0歳児がいるかみんな知っているから)
 
それに従えば、来年度には鱶沢には複式学級*1ができます。
その後も児童数は減少の一途で、鱶沢・卯崎とも複式は増えるばかり。
 
いずれ、鱶沢・卯崎の学校統合は避けられない、というのが一般的な見方だったのです。
 
ところが、それが突如として「2006年度4月統合」の話が持ち上がり……というのは、すでに何度か書いたことなのですが。
 
選挙→地方議会に提案……という政治プロセスの進行と平行して、地域でも作業が進み。
学校からも、今後の児童数の推移の予測を提示し、アンケートを実施して保護者の意向を調査。
地域でも、PTA会長を中心に、統合協議会が発足し、全保護者に参加を呼びかけて、学校統合関係の協議を行ってきました。
 
ちなみに、この過程で蚊帳の外に置かれていたのが、他ならぬ我々鱶沢小職員。
 
地域の保護者には、「来年統合らしい」という話は前々から回っていたらしく。
 
「先生、来年学校なくなるらしいけど、先生はどこ行くんだい?」
「は?」
 
みたいなやりとりがたびたび交わされて、最初は「変な噂が流れている」くらいに思っていたんですが、そのうち「どうも内々でそういう話が進んでいるらしい」……という感じに。
 
一方の卯崎小には、教育委員会の視察が入ったりしたようなんですが。
どうも、なくなるのはこっちの学校なので、公式決定まで気を遣って教えないつもりだったらしいのです。
 
……ガンの告知じゃないんだからさ。
告知されてからあわてて準備する方の身にもなってくれよ。
 
さて、回収された保護者アンケートを見ると、統合の時期や、統合後、どちらの校舎を使うのか、といった点については意見の相違が見られたものの、「統合やむなし」という声が大半でした。
 
統合協議会では、出席者間の話し合いで、

  • 基本的には2006年度統合の方向で進める。
  • 統合後の校舎は卯崎小学校のものを使用する。
  • 統合後の校名は「卯崎小学校」。

……ということで基本的に合意。
 
私「……ってことは、うちの学校、なくなっちゃうんですか?」
先輩「ところが、続きがあるんだな」

  • 5年後を目処に、鱶沢中学校が市中央の中学校と合併する。
  • その後、新卯崎小学校を、空いた中学校の校舎に移転する。
  • 移転後の校名は「鱶沢小学校」。

先輩「中学校の統合方針は、前々からの話だったから。まあ、そうなるんだろうね」
私「卯崎小の名前を4年間だけ使う、ってことですか」
先輩「うん。鱶沢の名前をなくして卯崎を残すなんて、うちの地区の保護者がやけにおとなしく受け入れたと思ったら、こういうことだったんだな。
確かに、中学校の校舎は新しいし、設備も整っているから、移転した後空けとくのはもったいないけど」
私「また引っ越しじゃ大変ですね」
先輩「勤続年数から考えて、K村先生はその時まだいるかもしれないぞ」
私「げ」
 
ちなみに、校舎の古い順で言うと、
鱶沢小(台風の時に雨漏りがする)>卯崎小(日本中どこでもある四角い校舎)>鱶沢中(バリアフリーに配慮し、デザインもそれなりに凝った、わりと新しい校舎)
の順。
 
先輩「協議会に参加した保護者の中で、反対の人はいなかったらしいよ。まあ、不参加で反対する人はいないだろうから、これで決まりなんじゃないかな」
私「……」
 
私は、鱶沢小の校舎も好きですし(正直言って、これまで勤務した校舎の中で一番気に入っている)、保護者(鱶沢の)からも、統合後、今の校舎を使ってほしい、という声もあるんですが。
しかし、常識的に考えると、消防法に適合しているかどうかも怪しい今の校舎に、統合後の学校がやってくる可能性はゼロでしょう。
 
で、先日の市議会で、学校統合に関する条例案が提出され、可決。
学校統合がようやく学校にも公式に通達され、両校の教務主任は来年度以降のカリキュラムの調整に入ります。
 
同時に、市の担当者がやって来て、保護者に対してこれまでの経緯と統合後の見通しを説明。
 
……ところが。
 
鱶沢小で行われたこの説明会、これが大荒れだったらしく。
 
学校側で出席したのは、校長教頭だけだったのですが、漏れ聞こえてくる範囲では、反対派の保護者が相当数いて、話し合いは紛糾。
かなり感情的な言葉も飛び出したようです。
 
後知恵になりますが、私は、なんとなく話がすんなり進みすぎている気はしたのです。
というのも、統合反対の人=現状維持派の人は、アンケートに答えたり協議会に出席したり、にはどちらかというと消極的なんじゃないかな、と。
「積極的に推進しなければ統合されない」……くらいに考えているとすれば、なおさら。
だから、アンケートでも協議会でも、反対派の意見はすくい上げられていないのではないかと。
 
……とはいえ、なんだか校長も感情的になってるし。
 
なんか、
「校長はみんなから嫌われてるからな」
……とか言われたらしく。
 
挙げ句、反対派の保護者が、PTA会長らに向けて、
「無い頭絞ってよく考えろ」
とか言い捨てて途中退席。
 
あいやー……。
それは、私より年上の社会人が、今後も顔を合わせる近所の人に向けてとる態度としてはどうなのよ。
 
ここまで深刻な事態になるとは私も全然思ってませんでした。
 
教訓:反対派は協議の場には出てこない
 
……成田空港反対派じゃないんだからさ。
 
それで、話し合いの場に出てこなかった挙げ句、決定事項に対して「我々不在のままなされた合意だ」とか言い張るのはいかがなものか。
途中経過は何度も通知して、話し合いの日程も連絡したじゃないですか。
 
おかげで、行政は強制退去を求めるし座り込みはするしロケット弾は打ち込まれるし大臣は引っ張り出されるしもう大変。
 
いや、それは成田空港の話ですが。
 
……その日、地元出身議員が携帯で呼び出されたのは本当らしいけど。
 
大騒ぎの挙げ句、もう一度学校からアンケートを取り直すことに。
来年度統合か、それとも再来年を目処にするのか。
 
昨日の野球部の練習で、保護者同士がぶつぶつ言っているのを立ち聞きしたんですが。
どうも、PTA会長に、統合反対を訴える陳情をするように要求したのだとか。
 
「……毎日でも行かなきゃ駄目だって言ったんだけどよ、なんか要領を得ないんだ……」
 
そりゃまあそうでしょう。
これまで、協議会の中心として話し合いをとりまとめてきて、来年度合併の方向で結論を報告してるんですから。
それがいきなり反対の陳情を毎日始めたらむしろどうかしているんじゃないかと。
 
そもそも、直近の選挙で統合賛成の地元出身議員が当選していて、すでに統合が議会で可決されている以上、今更陳情をやっても遅いと思うんですが……。(ただ、地元出身の候補者はその人一人だけだったんですが)
もう半年早く陳情を始めれば、効果があったでしょうけど……。
 
なおも立ち聞きしていると、アンケートの結果を保護者に報告しなかったことも不満の要因であるらしく。
 
……それは確かに。
 
保護者の意向を知るためのアンケートって時々あるんですが(「運動会の日程はこれでよかったか?」とか)、その結果は職員に周知されるだけで、保護者に通知しないことが本校ではままあります。
 
「職員間で活用する資料として集めたものだから」……という意識があるわけですが、アカウンタビリティの観点からは好ましくないかもしれません。
 
……この辺の、アカウンタビリティの意識不足が、「校長嫌われてる」発言の原因の一つなのかもしれません。
 
私自身は、統合に賛成か反対かと問われても困ります。
校長からは、
「職員は、統合問題について何も言わないこと」
……と念を押されているのですが。(「〜〜先生はああ言っていた」……と、引き合いに出されると問題になるから)
 
今の学校を残していけるなら、それが最善だとは思います。
しかし、児童数が減少し、来年度から複式が生まれるというのが現実。
前任校でやっていましたが、複式学級の指導は大変です。
しかも、本校には、複式学級の指導の指針が全くないのですから。
 
いずれにしても、子どもたちにとって最善の結果が出るよう望みます。
来年度統合にせよ、再来年にせよ、保護者間にしこりがのこるようでは、子どもたちにとって良くないと思うのですが……。
 
……ところで校長先生、「何も言わないこと」なら、
「議会で、本校を閉校にして卯崎小を残すことになりました」
……って言いふらすのやめようよ。
 
確かに、法律上の手続きとしてはそうだし、(「新設」「閉校」というものはあっても、「統合」という処理はないらしいので、法律上はどちらかがなくなってどちらかが存続することになる)どっちにしても、通う子どもたちは同じなんですが。
でも、「統合」なのか「閉校」なのかで地域の感情は大違いなんで。
だから、みんな穏便に「統合」って表現してるのに……。
 
さて、これに伴って、野球部関係でも動きがあるのですが……。
 
いい加減長くなりすぎなので以下次号。

*1:複数の学年が一つのクラスになること。
3年生3人と4年生5人で一クラス、とか。
それを一人で授業するので、担任も子どももけっこう大変。
普通は、3・4年複式、とか5・6年複式、というようになるが、「4年生が一人もいない」という状況では「3・5年複式」になったり、極端に小規模の学校では「4・5・6年複式」になったりする。
すごく大変。