こくみんにおこられるからやっちゃだめ。

ラジオで聞いたニュースから。
台湾、タミフル在庫尽きれば承諾なしで独自に製造可能との見方示す
 
つまり、台湾政府(……日本政府的には、台湾には政府はない扱いなのかな)は、ロシュ社との交渉が難航していることから、どうしても必要な場合にはロシュとの契約なしに製造したタミフルを使用する、と言っているわけですね。
 
これを聞いてまず思ったのは、
「ハインツのジレンマだ!」
……ということでした。(いや、正確な名前はその時は思い出せなかったんですが)
 
コールバーグが道徳性の発達について説明するために使った有名な例話です。

ヨーロッパで一人の婦人がたいへん重い病気のために死にかけていた。
その病気は特殊な癌だった。
彼女が助かるかもしれないと医者が考えるある薬があった。
それはおなじ町の薬屋が最近発見したラジウムの一種だった。
その薬の製造費は高かったが、薬屋はその薬を製造するのに要した費用の十倍の値段とつけていた。
かれはラジウムに二百ドル払い、わずか一服分の薬に二千ドルの値段をつけたのである。
病気の婦人の夫であるハインツはあらゆる知人にお金を借りに行った。
しかし薬の値の半分の千ドルしかお金を集めることができなかった。
かれは薬屋に妻が死にかけていることを話し、薬をもっと安くしてくれるか、でなければ後払いにしてくれるよう頼んだ。
だが薬屋は
「だめだ、私がその薬を発見したんだし、それで金儲けをするつもりだからね。」
と言った。
ハインツは思いつめ、妻のために薬を盗みに薬局に押し入った。
 
引用元:http://www.edutech.tohoku-gakuin.ac.jp/ujiie/
ハインツのジレンマはこちら:http://www.edutech.tohoku-gakuin.ac.jp/ujiie/douotku11.htm

この例話そのものや、それをもとにした道徳性の発達に関する理論については、いろいろ批判もありますが……。 
コールバーグの理論を前提とすれば、この例話に対してどう反応するか(ハインツに賛成するか反対するか、ではなく、「なぜ」賛成・反対なのか)を見ることで、その道徳性の発達段階がわかるのです。
 
してはならないことは、なぜしてはならないのか?
 
罰せられるからか。
自分の不利益になるからか。
他人から非難されるからか。
他人に迷惑をかけることで罪悪感を覚えるからか。
自尊心と社会的信用を失うからか。
自己の良心に逆らうことになるからか。
 
実際、2年生に、
「どうして、〜〜をしてはいけないんだろう?」
……と聞くと、
 
「お父さんにおこられるからやっちゃだめ」
「もしばれたらみんなにいやがられるからやっちゃだめ」
……みたいなことを言う子が多いのです。
 
コールバーグの理論がどこまで正しいのかどうかはさておき、道徳性の発達、というものが存在するのは確かだと思います。
 
……各国がどう反応するか、楽しみですね。
 
(……「ケアの倫理」*1で語る政府が現れたりするのかしらん)

*1:コールバーグの理論に対する反論の一つ。
「ロシュ社の株主さんもかわいそうだと思う」「台湾も、フィリピンとかシンガポールに相談してみたらいいと思う」……のように、人間関係に沿って「みんなが幸せであるように」という方向でどんどん考えが拡大していく発想。
女の子に多く見られるとされるが、「正義・公平」を主眼とするコールバーグの発達理論では想定されていないため、低く評価されてしまう。