特殊学級について。(覚え書き)

先に逃げ口上を打っておきますと、私自身は、担任の子の名前を就学指導委員会に報告したことはないんです。
ただ、周囲の先生の様子を見て考えたことを書いておきます。
時々読み返したり、考え方が変わったら書き直すかも知れません。
 
先日、学校教育相談基礎研修の6日目(最終日)に参加してきました。
 
今回の内容は事例研究会。
架空の事例をロールプレイした前回と異なり、今回は、各参加者が、現在、あるいは以前悩んでいた子どもについての事例を持ち寄り、それについての対応策を話し合いました。
 
研修ですから、「今後学校内で事例研をやる時のために、事例研とはどのようなものか学ぶ」という意味合いもあったのですが。
 
全員事例を持ち寄るよう言われていたので、「個人名は伏せ字で」などのルールに気をつけつつ資料をまとめて参加したのですが、そしたら「時間の関係がありますので、各グループ(6人)のうち、実際に扱う事例は2つということにしたいと思います」
 
つまり、集まった事例のうち4つは無駄になると。
そういうことは先に言えよ。
 
まあ、先に言うと手を抜く人がいるかも知れませんが。
私みたいに。
 
っていうか、今の私は子どもについて困っていることがあまりないので。
資料も、前任校での経験をまとめたものでしたので、切迫性はなかったのです(今後のために他の先生方から話を聞きたい気持ちももちろんありましたが)。
 
で、選ばれた事例がどんなものかというと。
(……なお、「秘密厳守」と念を押されましたので、以下の内容は、具体的な物事については基本的にフィクションです。
ただ、「だいたいこんな感じ」というのははずれていないんじゃないかと)
 
小学生のA児。
担任の相談は、「周囲との協調性に欠け、不登校の傾向にある」という内容でした。
 
具体的に言うと、

  • 学習への意欲が低く、ノートもほとんど何も書かない状態。担任が時間中絶えず励ましたり叱ったりして、ようやく単元名と今日の学習内容(合わせて20字くらいでしょうか?)を書き終わるくらい。
  • 登下校・授業中・給食中と常に古い野球帽をかぶっており、決して手放さない。衛生上、洗濯した形跡がないのが気になる。
  • 漢字・ひらがな・カタカナ問わず、字を定規を使って書く。理由を尋ねると「この方がきれいに書けるから」とのことで、「時間がかかるよね」「丸く書いた方がいいところもあるよね」などと促してもやめようとはしない。
  • 友だちとはほとんど言葉を交わさない。
  • 窓の開け閉めを延々10分間繰り返すなどの行動が見られる。
  • 休み時間の様子を離れたところから見ていると、空き教室の前の入り口から入って後ろから出て……を時間中ずっとしていた。
  • 工作や新聞作りなど、協力して行う作業では、どうしても担任や友だちから言われたようにできない。
  • 友だちが「違うよ」「そうやるんじゃないよ」と教えると、耳を抑え、うずくまって動かなくなるなどの行動が見られる。
  • ぶつぶつつぶやいているので聞いてみると、「死ね」「殺してやる」などとつぶやいていた。
  • 保護者には「友だちに悪口を言われた」「学校に行きたくない」と話しているらしい。
  • 保護者は、「なかなか引っ込み思案な子で、自分の言いたいことが言えないんですかね」「親もどうしても仕事が忙しくて」「先生はお若いからわからないでしょうけれど」などといった態度で、何を言っても状況を正しく伝えられない。

……これで、担任から「どう対応したらいいでしょうか」という相談だったのですが。
 
……担任の対応次第でどうにかなるんですか?
 
参加していたもっとベテランの先生たちからも、
「これは、性格の問題と言うより、(専門家でない自分が診断名を言うのは好ましくないが)例えば高機能自閉症などが疑われるのではないか」
「一度、専門家の診断を受けた方がいいのではないか」
といったアドバイスが出ていました。
 
ただ、専門家の診断を担任の判断で受けさせることはできません。人権問題になりますから。
保護者の同意が必要です。
 
このケースではそこがネックで。
 
……というかほぼ常にそこがネックなんですが。
保護者から、「うちの子は高機能自閉症かも知れないので専門家の診断を受けさせたいんです」……というような話が来ることはまず絶対にありません。
 
どの親も、「うちの子は(もちろんちょっとくらい苦手なこともあるけど)普通の子だ」と考えています。
そこへ「……一度専門家の診断を……」と、話を持って行くのは学校の仕事になります。
 
考えるだけで気が重いのがわかっていただけるでしょうか?
 
とはいえどう考えても言われる方はもっと重いんですが。
 
担任「『先生は若いからねー』とか言って話聞こうともしないんですよ。もうカチンときちゃって」
ベテラン「それは、やっぱり養護教諭とか特殊学級担任とか、経験のある先生にも協力してもらった方がいいんじゃないかな」
担任「なんですけど、本校、他にもいろんな子どもがいて、養護教諭特殊学級ももういっぱいいっぱいなんです。だから、こういう小さい事例はどうしても後回しになっちゃって……」
 
これが「小さい事例」なんですね。
 
……つくづく、自分が子どもたちに恵まれているのを感じます。
 
……いや、「手がかかる子をお荷物扱いにしている」と非難されると返す言葉がありませんが……。
 
普通学級で障害児を受け入れられるのか?
答えは、「Noではない」だと思います。
毎日、その子だけ特別に課題を用意し、周囲の子との関わりについても万全の対応を整え、常時その子に気を配っていればいいのです。
 
で、他の子は?
 
地域密着型の開業医に、常時モニターが必要な難病の患者さんが入院してきたようなものです。
 
一学級に30人以上子どもがいるのに(私のクラスにはいませんが)、担任のマンパワーの8割方が1人の子に集中してしまう状況というのは、(誰にとっても)不幸だと思うのです。
担任である以上、どの子にも気を配りたい、という思いは当然あります。
それが果たせなくて、他の子がそれぞれに抱えている「些細な」問題(勉強がよくわからないとか、体のことで悩んでいるとか、いじめが進行中だとか)は放置せざるを得なくなってしまうのはとてもつらい気がします。
 
だいたい、そこまでして本当に「万全」なのかどうかは定かじゃありません。
特別支援教育が専門の先生だったらこんな時どうするんだろう」という思いが常について回ります。
 
もしも私が、自分でさっぱり理解できない大学院の高等数学かなにかの講義を一日何時間も聴かされて、ノートを取って課題をこなすよう要求されて、それが毎日毎日何年間も続くとしたら、途方もないストレスだと思います。
で、それだけの期間講義を聞いて、それで何かを得られるか、といったら、おそらくそんなことはないでしょう。
むしろ、高一か中三あたりの数学の復習から始めて、少しずつ高度な内容に移っていく教育課程のほうが(大学院の水準には達しないにせよ)有益だと思います。
 
……それと同じ事が、知的障害児と普通学級についても言えると思うのです。
 
本人が全然理解できない授業を毎日毎日聞かせて、障害児にとって何のメリットがあるのかと。
一方、特別支援教育では、一人一人個人差が大きい障害児について、個別に教育計画を立て、その子にとって最善の学習内容を工夫しているわけです。
少人数教育のメリットについては広く知られたところですが、児童対教師の比率で考えるなら、一番贅沢にマンパワーが投入されているのが障害児の教育なのは明らかです。
 
ですが、世の保護者の多くは、我が子を特殊学級に入れることには反対します。
かく言う私だって、子どもができて、それが「アスペルガー症候群です」とか言われたら動揺するに決まっていますが。
 
でも、特別支援教育は、障害児を支え、将来社会生活を送れるように育てるために計画され、運営されている制度です。
なんだか、障害児を隔離する制度だと信じている保護者がいるのは不幸なことです。特別支援教育専門の教員を養成する課程が大学に設置され、専門家委員会が特別支援教育の今後のあり方について議論し……それが全部、ただ隔離するためだけだと思っているんでしょうか?
あるいは、どうしても自分の子が障害児だ、ということを認められないご両親とか……。
それはそうなんでしょうが……。
 
でも、「その子にあった教育がその子を幸せにする」というのは真実だと私は信じます。
 
とはいえ、どの子を普通学級に編入し、どの子を特殊学級編入するかは一概には言えません。
 
知能、というのは、視力などと同じく、連続的なものだと思います。
高い人もいるし低い人もいます。
「健常児」と「障害児」の間で、明確な線引きのできるものではありません(……と言うと、専門家からは無責任だと言われると思います。視力は連続的なものですが、「健康な目」と「軽い緑内障」の間には明らかな違いがあり、知的障害についても同様のことが言える場合がある(言えない場合もある)からです)
 
ですから、

  1. 特に普通学級で教育を受けるのに不都合はない子ども
  2. 明らかに特別支援教育を受けた方がよい子ども
  3. そのボーダーライン上にいる子ども

を想定すべきでしょう。
 
「1」「2」についてはさておき、「3」に含まれる子については、保護者との相談の上で就学先を決めるのが望ましいあり方だと思います。
 
もちろん、例えば知能指数だけで線引きができるものではありません。
社会性など、様々な角度から考えねばなりませんし、保護者がどの程度その子のために時間や労力を割けるのか、というのも重要です。
「3」群は、かなり幅が広くなるでしょう。
 
……と、いうのが妥当だ、と、当事者でない人は言うと思います。
 
ただ、私が見聞きした限りでは、「1」群はもちろん、「3」群のほぼ全て、「2」群のかなりの数が、普通学級で教育を受けていると思います。
 
と言うのも、「あなたのお子さんは特殊学級に通うことになりました」と、決める権利が誰にもないからです。
 
その結果、
「決めるのは親御さんですからねー」
……とか言いながら、遠回しに「特殊教育を受けさせた方が本人のためですよ」と説得するのが学校の仕事になるのです。
 
……ああー。
 
どの子も万全の知能を持って生まれてくれば、誰もが健常者だったら、誰もが幸せなのに。
なぜ、同じ人間で、本人には何の罪もないのに、知的能力にこれほどの差が?
 
万物の造物主って奴は、無能か残虐のどちらかだと思います。絶対。