いやまあその。
とりあえず写真を見て下さい。
うちの学校の通学路で撮影されたものです。
この話はこのところマスコミをにぎわせているようなのでみなさんご存じとは思うんですが。
ご存じない方のために……というより、後日読み返していてもう忘れてしまっている方のために(個人的には、すぐ風化しそうな話だと思うので……)。
埼玉県の中学生が、自転車に乗っている時にガードレールに取り付けられた鋭利な金属片に接触、18針縫う大けがをしたのが事の発端でした、
あわてて調査をした役所の人々は、国道沿いの数十カ所に、同様の金属片が取り付けられているのを発見します。
これは一大事。
話を聞いた近隣の県が調査を開始すると、あちらでもこちらでも同様の鋭利な金属片が。
「こっちの国道にも何十カ所!」「うちの県では百何十カ所!」
今や発見されていない県の方が少ない有様。
そして今朝。
教育委員会からFAXが。
「市内の教員が、通勤途中、ガードレールに鋭利な金属片が取り付けられているのを発見しました。
各学校においては、十分な注意を呼びかけるとともに……」
これを受けて、通学路のガードレールを点検したところ、発見されてしまったわけです。
職員室ではひとしきりこの発見が話題になり。
「いやー、誰がやるんだろうねこういうこと」
「あぶないよなあ」
「真似する奴がいるんだねえ」
「しかしこれって学校がやる仕事なのかな」
……いや……。
でも、ですよ?
最初のうちなら、「馬鹿な愉快犯」「馬鹿な模倣犯」「馬鹿なたくさんの模倣犯」ということですんだかもしれませんが。
今や、全国で1000件を軽く超えようという状況。
ガードレール同士って、当たり前ですが相当がっちり固定されていて、その隙間に金属板をねじこむのは容易な事じゃありません。
私もこの金属板をひっぱってみましたが、抜けるどころかびくともしませんでした。
意図的にこれをやろうとすれば、それなりの工具が必要でしょう。どんな工具か、素人の私にはわかりませんが。
なんにせよ、ニュースを聞いてちょっとその気になった人間が、軽い気持ちで犯行に及べるようなものではないわけです。
第一、これ、最近取り付けられたようには見えないんですが。
模倣犯の仕業なんでしょうか?
まあ、さび付いた金属板を最近取り付けたのかも知れませんが……。
それに、よく見ると、大きい金属板の上の方に、なんだか小さい金属板がねじ込まれています。
これだって相当大変な作業ですが、これでけがをする人間がいるとは思えません。
それじゃあいったい何のために?
……そんなわけで、私は、これは人為的なものじゃない、という気がしています。
多くの報道では、「取り付けられた金属板」という、悪意ある何者かの存在を示唆する表現がなされていましたが……。
手元にある、「ハインズ博士『超科学』をきる(テレンス・ハインズ著 井山弘幸訳 化学同人社 isbn:4759802754)」から、あるエピソードを引きたいと思います。
1954年3月、アメリカはワシントン州、シアトルで、奇妙な現象が起こりました。
住民のうち幾人かが、車のフロントガラスに小さなくぼみができているのを発見したのです。
日が経つにつれ、フロントガラスにくぼみがある車は加速度的に増大し、シアトルの人々は不安に駆られました。
大気汚染と酸性雨が原因、という見方もありましたし、太平洋で盛んに行われていた原爆実験の放射性降下物が関係しているのでは、という意見もありました。
なんにせよ、ガラスに傷を付けるようなものであれば、人体にも有害に違いありません。
騒ぎは拡大を続け、4月15日、シアトル市長はついにワシントン州知事と合衆国大統領に対して援助を求めました。シアトル市は正体不明の危機に直面している、と思われたからです。
……で、一体これは何事だったのか?
話は簡単です。
舗装されていない道路を車が走ると、小石が跳ね上げられて後続車のフロントガラスにぶつかります。
で、くぼみができるのです。
……それだけのことでした。
だから、フロントガラスのくぼみはずっと昔からたくさんあったのです。
ただ、見過ごされていただけで。
それにある日誰かが気が付いて声を上げると、それを「発見」する人が続々と現れ、何か奇怪な現象が起きているかのように感じられるのです。
……今回のガードレール事件も、そんなことじゃないでしょうか?
中には愉快犯の仕業もあるのかも知れませんが、おそらく、大部分の金属板はずっと昔からあって、見過ごされていたのだと思います。
こういう「集団ヒステリー」的な事件を、間近に観察できたのはなかなか興味深い経験でした。
これがどのように拡大し、どのように収束していくかで、日本社会の程度が見える気がします。
……とかいって、ほんとに誰かが意図的にやったことだったら私はすごく間抜けですが。