皆さんは、先頃文部科学省から出された次官通達についてどうお考えでしょうか。
もっとも、30人学級の導入の可否や、義務教育費国庫負担制度の存廃、あるいは教育基本法改正の是非など、大きな教育関連のトピックが目白押しの昨今ですから、たかだか次官通達なんてご存じない方も少なくないのかも知れませんが。
この通達は、昨今の小学校への不審者侵入事件の増加と、それによる悲惨な被害、そして、これに対する抜本的対策の困難さ(学校の周囲に塀を巡らして、門も閉じられるようにするとか、監視カメラの設置とか、警備員の配置とか……大阪の池田小なんかはやってるようですが、全国の小学校にやるようなお金はどこにもありません)に鑑み、実際に事件が発生した場合に現場で対応に当たる職員組織に対し、対応の指針を示したものです。
これによれば、侵入した不審者を発見、あるいは拘束した場合の処理は、「校長の判断のもと、迅速・柔軟に」行うこととされています。
一見当たり前のようですが、これは、私人が犯人を現行犯逮捕した場合、可能な限り速やかに警察に引き渡すよう述べた刑事訴訟法第214条の精神とやや異なる内容です。
そのあたりの疑問を想定したのか、通達では、学校職員に対して、「児童生徒の生命安全を守る責務を自覚し、果断に」行動べきことを述べ、自宅内などでは正当防衛の基準が緩やかになるというあたりの事例に注意を促しています。
つまり、「多少手荒にやってもOK」だと?
何より注目すべきは、この次官通達が存在しないということです。
……すみません。
……いや、存在しないんですよ。
でも、です。
本校も、こないださすまたを買ったんです。
そしたら、次の日の朝の打ち合わせで、校長が、
「さすまたというのは、言うまでもなく不審者を取り抑えるための道具です。
が、もし、本当に不審者が侵入してきた場合には、あれで殴っていいです。私が許可します」
殴れとおっしゃる。
しかし、さすまたというのは、先端部分にはちょっとゴムのクッションみたいなのがついてますが、それ以外はむき出しのアルミ合金。本質的には長さ1.5mの金属棒です。
そいつを使って、力一杯ガツンと一発。
当たり所が悪ければわりと死ねるんじゃ?
……いや、校長がやれと言うんですから。許可すると。
校長にそれを許可する権限があるのかどうかよくわかりませんが、それはきっと校長先生の方がよくわかっているに違いありません。
いや、もちろん、「殺せ」とはっきり言われたわけじゃありませんが。
……でも、教頭が言うんです。
「もし不審者が来たら、跳び蹴りしてやろうと思うんだよな。
自分の体重で廊下の向こうから走っていって思い切り跳び蹴りしたら、たいがい死ぬんじゃないかと思うんだけど」
いや、実際死ぬかどうかは知りませんが、死なす気なんですか。
まあ、なにしろ子どもの命を守るためですから。
「子どものことを守らなければ、と、もう無我夢中で。 相手が死ぬかも知れない、なんて考えている余裕はありませんでした」
とか言えば、許されるんじゃないでしょうか。
倒れた相手の脳天にさらに二・三発さすまたクラッシュを食らわしたのも無我夢中、とか。
救急車を呼ばなかったのも仕方ない、とか。
いや、もちろん実際には、怪我してれば救急車くらい呼びますけど。子どもが怪我したなら。
犯人? いや、それはなあ……。
まあ、子どもの点呼をして全員の無事を確認し終わってからなら。
救急車は110番でしたよね?
……救急救命措置? できるわけないじゃないですか、そんなの。
一応みんな講習は受けているけど、とっさにそんなのできないですよ。犯人相手に。なにしろ無我夢中だし。
……まあほら、議論の大前提として、刃物を持って学校に侵入してくるような奴に人権なんてないじゃないですか?
これをうっかり警察に渡して裁判に持ち込んだりすると、精神鑑定だのなんだので後々面倒ですから。
そうなる前に、現場でカタをつけちまおう、という。
校長「状況『ラビット』*1! 各員、危機対応マニュアルに従い行動開始! 捕虜は取るな! 対応班、さすまた構えッ! 突撃!」
職員「くらえェェ!」
……冗談ですよ? あくまで。ええ。
でも、今、ナイフを買って小学校に飛び込もうとか考えている方。
ひょっとすると、あなたが行こうとしている先が、本校かも知れません。
……それと、もし、「小学校に不審者。さすまたで殴られて意識不明の重体」……なーんてニュースが流れても、それはウチじゃありませんし、故意でもありません。
ただただ、子どもの事を思うあまり力余っただけです。もう無我夢中で。
みなさん、どの学校も、不審者から子どもの安全を守るため、乏しい予算・設備の下で最善を尽くしています。
*1:精神的に不安定な侵入者への対応として、「不審者が侵入しました、全校児童はすみやかに避難してください」「職員は直ちに児童玄関へ」みたいな刺激的な校内放送をすることは避ける、というのがあります。 かわりに、「動物の絵を描いたパネルを掲げる」などを緊急時のサインとしてあらかじめ定めておく、といった方法があるのです。