休校要請の日とその翌日、小学校であったこと。

 金曜日、昼食を買いに校舎外に出たら学童の子とすれちがい、
「先生、まだ学校にいたの!?」
 と言われました。
 
 違うよ……? 君たちが休校になっても、職員室の先生達はみんな勤務日なんだよ……?
 でも給食は出なくなったから、昼食は弁当持参かコンビニで買うかなんだ。
(「感染予防のため飲食店の利用は避けるように」と校長から指示されている)
 
 さて。
 休校関連のあれこれを、学校視点で書いておこうと思います。
 
 ……あんまり詳しく書くと、自治体名どころか学校名まで特定されそうなので細部は若干改変してありますが、全体としては事実に基づいています。
 
 2月27日19時頃。
 本校の職員室には、ほとんどの職員が残っていました。
 通知表・指導要録の作成や進級・進学、卒業等の準備が集中する年度末は、学校でもっとも忙しい時期なのです。
 
 そんな中、教頭が「えっ!?」と叫び、ややあって
「『安倍総理がコロナ対策で全国の学校に休校を要請。3月2日から春休みまで』って!」
 と叫びました。
 
 職員室に「ええっ!?」という動揺の声があふれ、みんな一斉に手元のPCでニュースサイトの閲覧を始めますが、何しろそれ以上の情報はありません。
 
 職員があわてふためく中、校長・教頭・教務主任らはしばらく深刻な面持ちで相談していましたが、やがて校長が立ち上がり、
「学年主任の先生方! お忙しいところすみませんが、臨時の打ち合わせを持ちたいと思いますので、校長室にお願いします!」
 管理職と学年主任、教務主任、学習指導主任、児童指導主任らは、校長室に入っていきました。
 
 残ったメンバーは仕事をしながら気もそぞろです。
 
「え……何? 3月2日から休みって、今日が27でしょ? 明日が28で、土日を挟んで月曜が2日でしょ? じゃあ、明日で学校最後ってこと……?」
「通知表とかどうすんの……?」
「卒業式は……?」
 
 小一時間ほどして校長室から学年主任らがぞろぞろと出てきます。
 
 校長から。
「えー、先生方、すでにご存じの通り、先ほど、安倍首相より、全国の学校に、3月2日から休校するように、との要請が出されました。
 具体的な対応については、市で足並みをそろえることになると思いますので、休校するかどうかをここで決定することはできません。
 しかし、最悪の事態に備えておくことが必要だと思います」
 
『最悪の事態』て。
 
「報道はもちろん保護者も見ていると思いますし、不安も感じているはずです。
 ですから、市の方針が決定するまで何もしない、というわけにはいきません。
 保護者に対しては、今から、一斉メールを送信して、ひとまず明日の対応について連絡したいと思います」
 
 本校はありがたいことに働き方改革の一環として新しい電話機が導入されまして。
 18時以降は「本日の業務は終了しました。また明日お掛け直しください」という自動音声が流れる仕組みになっています。
 これで18時以降は校務に専念できるわけですね(働き方改革)。
 
 もしそれがなかったら、打ち合わせや校長が話している間にもじゃんじゃん電話がかかってきて大変だったろうなあ、と想像します。
 
 その日に出たメールは以下のようなもの。
 
・3月2日以降の予定は、まだ市教委から連絡がなく、休校になるかは未定です。
・しかし、明日、2月28日が最終日になる可能性もあります。
・このため、明日は授業を行いません。下校時刻は予定通りです。
・教科書、ノート等は不要です。その代わり、持ち帰る荷物が大量になると予想されるので、大きなバッグを持たせてください。
・休校になった場合、通知表や、お道具箱、絵の具セットなどの大きな荷物類については、春休み期間中に取りに来る期間を設ける予定です。
・今後の予定については、決まり次第メールや通知文書でお知らせします。
 
「これは大変なことになった……」
「えっ……明日、授業ないんですか? ウチ、今日、理科の実験やって、明日グラフにまとめる予定だったんですけど……」
「そもそも教科書がまったく終わらないよね……?」
 
 なんか、世間では
「この時期の学校なんて、卒業式の練習やってるだけでしょ?」
 みたいなことを言う人もいますが、それはわりと何十年か前の話です。 
 
 確かに、私が子どもの頃の小学校は、卒業式だの運動会だの学芸会だののリハーサルを何度も何度もやったりしたものです。
 しかし昨今では、総合的な学習の時間だの道徳の教科化だの英語必修化だので学習内容が増えた結果、時間的余裕がなくなっています。
 学芸会とか小遠足とかいう行事は「学校行事の精選」として、多くの学校で姿を消しました。
 残った卒業式や運動会のような行事でも、準備時間は大幅に削られ、3月ギリギリまで授業をしないと教科書が終わらない事態になっているのです。
 
学習指導主任より。
「終わらない教科がいっぱいあると思うんですが、それは、家庭学習用のプリントを子ども達に配って、休校期間中に自習してもらうということにします」
「そんなこと可能なのか……?」 
 
 もちろん可能な子、可能な家庭もあると思うんですが、それがみんなに可能ならそもそも公教育なんて不要なわけでして。
 
「……ですので、お忙しいところすみませんが、明日、子ども達に配布できるよう、自習用プリントの作成と印刷をお願いします。今から」
「……そんなこと……可能なのか……?」
 
「あと、各学級とも、終わってないドリルとか、テスト類があると思うんですが、それは、明日、子ども達に全部やらせるようにしてください」
「………可能じゃないだろそれは」
 
 多くの学校では、テスト・ドリル類は、業者から購入したものを使用していると思います。
 その費用は保護者が負担しているわけで。
 保護者に
「学校で使用してお子さんに教えるために必要なんです。だからお金出してください」
 ……って言って買ったものを白紙のまま返却しては、申し訳が立たない。
 だから、通常、なんとしても年度末までに終わらせることになっています。
 
 ……今回は「通常」じゃない気もするんですけど……。
 
「それから、子ども達のやった教材、プリント等も、今、成績処理のために手元にあると思うんですが、明日、返却の漏れがないようにお願いします」
「……ええ……」
 
 通知表の作成が終わってから少しずつ返却するはずだったものが、突如「明日まで」に。
 
 そして6学年主任より。
「あの、先生方、お忙しいところ大変恐縮なのですが、もしも2日から休校になりますと、6年生は明日で本校を卒業ということになります。たいへん慌ただしい一日になるかとは思うのですが、少しでも6年生に卒業の気持ちを持ってもらうために、今から、教室周辺に少し飾り付けをしたいと思っています。申し訳ありませんが、ちょっとでもお手空きでしたら、お手伝い頂けるとありがたいです」
 
 通常、卒業式の準備は、前日放課後、担当になった5年生と職員が一緒に飾りを作ったり飾り付けをしたりしていくものなのですが、今回はもう夜。
 ただでさえ卒業関係業務で多忙な6年の先生たちですから、他の職員も手伝わざるを得ません。
 紙でお花をつくるやら風船を膨らませるやら「卒業おめでとう」のプレートやら。
 過去に作った飾りで流用できるものもありますが、そうでないものも多く。
 
 ……卒業式なんてくだらない形式だ、という人もいます。
  
 確かに、卒業して何十年も経った人にとっては、幼稚園や小学校の卒園・卒業なんて、くだらないままごとにしか見えないかも知れません。
 でも、卒業する本人や、その保護者にとってはとても重要な人生の節目ですし。
 それをいい思い出にしてあげたい、というのは、これまで6年生と接してきた教員の気持ちでもあるわけで。
 
 そんなわけで、わりと夜中までかかりました。
 
 で、迎えた28日。
 
 高学年では突然の修了に呆然とする子がいる一方、低中学年の子はわりと浮かれていました。
 まあ……春休みの長さが突如夏休み並みになったわけですからね……。宿題の量もだけど。
 
 朝には、校長から校内放送を通じて講話。
 主に、新型コロナウイルスの感染予防について。
 
「これまでのところ、皆さんのような小学生が感染することは少なく、感染しても重症になることはあまりない、ということですが、万一、皆さんが感染して、お家に持ち帰って、家族の誰かにうつしては大変だ、ということで、学校をお休みすることになりました」
 
 ……校長先生、実は休校に納得してないでしょ。
 
 実はこの28日の間にも、休校するのか、いつからするのか、といった点について方針が二転三転していました。
 
「仮に休校になるとしたら、上の方針が出るまでじっと待っているヒマもない」
 ということで、校長会と市教委と県教委がそれぞれに対応を協議したわけですが。
 
 臨時校長会で話がまとまった後に市教委から指示が来て。
 その後に今度は県教委から指示が来て。
 そして首相と文科省が「あくまで要請であって個別の判断は自治体に委ねる」とか強調し出して。
 
 保護者には、最終的な方針が決まるまで追加の連絡は出なかったのでその混乱は伝わらなかったと思いますが、一番てんやわんやだったのは給食主任でした。
「この日からこの日までの給食は全部キャンセルでお願いします」
「すみません、さっきキャンセルした給食なんですけど、やっぱりこの日とこの日は……」
「すみません、さっきキャンセルをキャンセルした給食なんですけど……」
 ……なにぶん、相手が生鮮食品ですから、早めに連絡しないとですね……。
 
 各学級では、膨大な量のプリント、通知文書が一挙に配布されて子ども達の机の上に紙の山ができ。
 通常の修了式の日だってかなり配るものが多くて大変なのに、何の準備もなく突然年度末になったわけなので、あの状況下で配られた通知文書、ちゃんと保護者に届いたんだろうか……。
 
 さらにそこに、残ったテストとドリルを一気にやるという無茶な日程で、最終日の余韻もへったくれもありません。
 なにぶん、まだ習ってないところのテストをやるわけですから、教えながらテストをする、みたいな荒技になったり。 
 
 そんな中、給食の時間には、5年生から、
「放送で6年生を送る会」。
 内容は歌とクイズでした。
 
 5年生も、これまで「6年生を送る会」に向けて、レクリエーションを考えたり、下級生と協力してプレゼントを作ったりしてきたのですが、それは全部中止。
 
 ……5年生にとっての「6年生を送る会」は、単なるお遊びではありません。
 一つのイベントを企画し、外部(他学年)に仕事を依頼し、準備し、運営するという経験を、教師がサポートする中でやる学習活動です。
 だから、ぜひ成功経験を味わわせてあげたいところですが……まあ、プレゼントだけは6年生の教室に渡しに行きました、みたいな結果に。
 
 放課後、教務主任が
「こんな時になんですが、もし今日、例えば算数の授業を行った場合には、週指導計画上は、算数の授業時間として計上しておいていただけると……」
 
 学習指導要領で、年間に実施すべき各教科の時間数は決まっています。
 だから、学校の時間割はその基準を満たすように組まれています。
 しかし、台風による休校やインフルエンザによる学級閉鎖などに備え、ある程度の余裕を持ってはいるとはいえ、余裕の時間数は、学年にもよりますが、7時間から12時間程度。
 1~2日分しかありません。
 
 万一、休校が長引いて本当に時間が足りなくなった場合には、その後、昼休みにも授業をやって一日7時間授業にするとかそういう非常措置をして、指導要領の要求を満たすことになります。
 学校行事がずいぶん減らされたのだって、教科の授業時数を捻出するためです。
 
 しかし今回、年度末である3月がまるまる消滅してしまうというのはもう対処不能なわけで。
 
 時間数もそうですが、内容的にも教科書が全然終わらない。
 
 例えば4年の算数では、
「今日は帯分数の足し算をやりましたね。明日は、帯分数の引き算をやります」
 というところで休校。
 
 その分数の学習の後には「直方体と立方体」という単元が控えていたのですが、これはもう全く触れさえせずに学年が終わりました。
 だから今年はたぶん全国で
「立方体……? 聞いたことがありませんね……?」
 という子どもが量産されたわけです。
 各学年、各教科でそんな感じ。
 
 消滅した一ヶ月分の学習内容をどうするのかはぜんぜんわかりません。
 元々、各学年とも、その学年で教えるべき内容を教えるので手一杯だったわけで。
 
 そこへ、今年度やり残した一ヶ月分を教え直すようなゆとりがあるとは思えない。
 仮にやろうとしても、「やり残した部分」は学級ごと、学校ごとに微妙に違うわけで……。
 
 どうするんだろ……?
 全国一斉学力テストとか、大幅な落ち込みが予想されるけど、やるんだろうか……?
 
 その他、突然雇い止めになってしまった非常勤職員の先生達とか、逆に突然フルタイムでの勤務を要求された学童の先生とか、色々あるのですが、そのへんは当事者ではありませんのでこのへんにしたいと思います。
 
 事態が早く沈静化するのを願っているところですが……。
 
 それにしても、これって、4月から新年度が始められるんでしょうか?
 そもそも休校が必要だったかどうかはさておき、現状を見るに、2月28日よりも4月6日の方が状況が良くなっているかどうか、疑わしい気がするんですけど……。
 

自主学習ノートの話。

 さて、先日、とある学校の取り組みが話題になっていました。
 ドリル宿題をやめ、子どもが自ら課題を設定する「自主学習ノート」に切り替えた、という話です。
ドリル宿題はもうやめます!“当たり前”を見直した水戸市石川小学校の挑戦 | アカデミア-真の教養を研究する教育情報メディア
 で、読んだ私の感想。

ドリル宿題はもうやめます!“当たり前”を見直した水戸市石川小学校の挑戦 | アカデミア-真の教養を研究する教育情報メディア

こういう記事でノートの写真が紹介されるような、自分で学ぶ力がある子にはいいだろうが…。学力格差が拡大しそう。途中の新聞記事に「教師が丁寧にコメントすることが大切」とある通り、教師の労力は増えると思う。

2020/02/09 13:19

 そしたら、なんと記事の筆者、ソルティー(塩畑貴志)氏からTwitterで返信をいただきました。わあお。

そうですね。ただ、宿題を必ずやらなければならないというルールではないようです。
子供自身が何を書こうかを考えること自体が正解なんだと思います
また、丁寧にコメントをする時間は本来教師が行うべきところだと思っています。丸付けは保護者も手伝ったりしているので労力が減っているようです。

https://twitter.com/Solty_gn/status/1226450337914998785

もちろん保護者としては労力が増えているので大変ですが、そこも地域で子供たちを見るという部分に繋がってくるのかなと思います。
教員だけに教育を任せようとしてしまうと、子供にとって本当に良い教育につながらないのかな〜ともお話を聞いていて感じました。

https://twitter.com/Solty_gn/status/1226450741453131776

(ツイート貼り付けたらすっごい見づらいレイアウトになったので引用文にしましたすみません)
 
 私も……自主学習ノートを全否定しているわけではないんです。
 前の学校でも、中学年以上では自主学習ノートが宿題としてありました。
 
 子どもたちの思考力や課題を追求する力を育てることは大切だし、その意味で、自主学習ノートは有効な取り組みだと思っています。
 
 ただ、色々難しいところもあるよな、とも思うのです。
 
「課題は自由です」
 というのは、「自由研究」「思ったように書いてごらん」みたいなもので。
 自分で学ぶ能力のある子(そしてそれをサポートできる保護者)にとってそれは素晴らしい機会になるでしょうが、そうでない子には厳しい。
 要は「2ページの自由研究」ですからね。
 
 それで結局、「自主学習ノート」の2ページにびっしり計算練習をしたり漢字練習をしたり……という状態になる子は少なくないと思います。
 っていうかわりと見た。
 
 そして、大体そういう子って、自分の苦手分野に取り組むんじゃなくて、とっくに覚えた漢字や、余裕でできる計算を「練習」するのですよ……。
 まあ、自分が何が苦手かを客観視するのって、小学生には難しいですから、責められませんが。
 
 でも、だったらドリルをやった方がマシなわけで……。
 
 そこで保護者が、子どもの苦手分野を見抜いてやるべきことを示唆してあげたり、研究すべきテーマを一緒に探してあげたり、そうでなくとも、せめて本屋で市販のドリルを買ってやったりするならまだいいんですが……。
 まあ……色々なおうちがありますからね……。
 
 ソルティー氏は
「保護者としては労力が増えているので大変ですが、そこも地域で子供たちを見るという部分に繋がってくるのかな」
 とおっしゃるんですが……。
「地域で子どもを育てる」って言うのは簡単だけど、普通の保護者は自分の子しか見ません。
 本当に「地域で」見るなら、保護者に見てもらえない子は他の誰かが見る仕組みを作らなきゃならないんですよね……。
 それがあるといいのですが。
 
 ともあれ、子どもが各自の能力に合った課題に、自主性を持って取り組めるようにするには、やっぱり大人のサポートが必要になります。
 その意味で、
「丁寧にコメントをする時間は本来教師が行うべきところ」
 というのはまことに耳の痛いところで、
「お前の能力がないから子どもの自主学習ノートがそんななんだ」
 と言われたらまあ返す言葉もないです。
 
 ただ、それって結局、子どもを伸ばすには相応の手間が必要だよ、という話なんですよね……。
 
 記事中でも触れられている秋田県においては、県の予算で教員を多く配置し、小学1~3年では30人学級、4~6年では20人程度の少人数指導が可能になるよう図ってきた、という事実があります。
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/084/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2011/07/05/1308080_6.pdf
 秋田県の学力が高い件については、「秋田は田舎だから地域の繋がりが密なのが影響している」「冬が長いから自宅での学習が捗る」「自主学習ノートなどの取り組みが」といったいろんな説がありますが、結局のところ、予算突っ込んで人員を増やしたから学力が上がったのだ、という、きわめて当たり前で身も蓋もない話なわけです。
(その人員をどう活用して何をやるのか、という点に秋田県の工夫があるわけですが)
 
 件の記事中では、
「ドリルを採点するのは先生たちも大変」
「ドリルをなくせば業務改善にもなる!」
 みたいな話になってますけど(なんと石川小のサイトにもそれっぽいことが書いてある)、普通に考えて、35人が同じドリルをやってきてそれを採点するのと、35人が別々の「自主学習」をやってきたのを見るのとでは、後者の労力の方がケタ違いに大きいわけです。
(もちろん、楽ならいい、って話ではありませんけども)
 
「宿題を必ずやらなければならないというルールではない」
 っていうのもよくわかりません。
 件の校長先生は
「極端なこというと自主学習さえなくていいかなって。だって子供って好きなことやれば良いわけだし。本当は読書とかね。自由だから気付くんです」
 とか美しいことをおっしゃってるけど……。
 やらなくていいなら何もしない子いるよね……?
 
 漢字ドリルにしても計算ドリルにしても、よく素振りに例えられますが、反復練習する中でしか身につかないことってどうしてもあると思うのです。
 たとえそれがすごくつまらないとしても。
 
 つまらない勉強をいかに面白くするか、味付けを工夫するのは教師です。
 でも、「面白さ」は手段であって目的ではありません。
 勉強の目的は、学習内容が定着することなわけで。
 だいたい、どうがんばったって、普通の小学生にとって勉強がゲームより面白くなることはない。
 
 そして、どう味付けしてもあんまり面白くならない反復学習も残念ながらあると思います。
 だから、「ドリルがつまらない」というのは、それをやめる理由にはならないのではないでしょうか。
 
 だからまあ……いきなり
「ドリル廃止! 自主学習一本にします!」
 みたいな話ではなくて、ドリルはドリルでそれなりに取り組みつつ、それなりに自主学習もやる、みたいなことが必要なのではないかなあ、と思っています。(ネット受けしない結論)
 
 石川小の取り組みの結果がどうなるかはまだわかりませんが、教育の分野でいきなり極論に走るのは危険なんじゃないでしょうか。
 

1mは一命取る、とかなんとか。

 ウチの市では、時折、業者に依頼して、学校の窓の清掃を行っています。
 上階の窓の外側を子どもに拭かせるとか危険ですから、専門家に任せるべきですよね。
 
 ……なのですけれど。
 
 市から来る業者、2階・3階の窓拭くのに、安全帯も付けなきゃヘルメットすらかぶらないんですよ……。
 それで全身外側に乗り出す……っていうか、完全に建物の外側に出て、片手で窓枠に捉まって、もう片手で窓を拭いてる状態。
 
 一瞬でも足を滑らせるか手を滑らせるかしたら即死。
 
 あれほんと心臓に悪いのでやめて欲しい……。
 
 そりゃ、今のところ落ちたことはないんでしょうけど。まだ一度も死んでないみたいですし。

 でも、学校って、オフィスビルとかと違って、作業の邪魔をしないよう配慮できる子ばかりではなくて、多動気味の子もいますしね?
 そもそも、授業中にも休み時間にも、教室や廊下を作業してるわけですし。
 
 万一そこへ子どもがぶつかったりしたら……と考えると大変恐ろしいです。
 
 もちろん一番被害を受けるのは落下した作業員さんでしょうけど、大勢の子ども達の前で落下事故とか、子ども達の心のケアも考えると……。
 
 誰にどう訴えたらいいのやら、と思っています。

「見える化」の魔力とは、自分の(続きはwebで!)

 昨日の記事で書いた校長の話。
(昨日の記事はこれ→もう過ぎた冬至の話。 - 小学校笑いぐさ日記
 
 その校長は学校ブログの更新に大変熱心で、毎日の閲覧数の増減に一喜一憂していました。
 
 なんか、「全国学ブログランキング」とかいうものがあるらしく、そこでの順位が市内の他の学校より上だとか下だとか。
「~~小学校(児童数が同じくらいの学校)には負けない!」
 みたいな。
(市教委の号令があって、市内の学校はみんな同じサービスでブログを開設していたんです。はてなではない)
 
 念のために言っておきますが、ブログが何万人に見られようが、一文にもなりません。
 
 まあ、学校の情報を保護者に発信する、開かれた学校づくり、という意味では、更新が頻繁なのはいいことかも知れませんけど……。
 
 さて、学校では、夏休みや冬休みの前には「終業式」というものがあります。
 児童指導主任から「長期休業中の過ごし方について」みたいなお話があったり、校長先生からありがたいお話があったり。
 
 で、ある終業式のこと。
 
校長「今学期、皆さんには、3つがんばったことがありました。
 1つ目は、あいさつがすばらしかったことです。例えば…(中略)。
 2つ目は(中略)。
 3つ目は、今日、学校のブログに書いておくので、お家の人に頼んで見せてもらって下さい」
 
「続きはwebで」だ! リアルでやる人初めて見た!
 
「そこまでして閲覧数を稼ぎたいのか……」
 
 しかし、子どもにとってはその場でほめてもらった方が当然うれしいわけですし。
 学校がブログを開設するのは情報開示のためですが、わざわざ子どもに情報を伏せてブログの方に載せるのは、むしろそれに逆行するわけで。
 
 要するに、ブログの閲覧数を増やす以外のメリットが何もない。
 
 もちろん、ホームページの閲覧数を運営者が気にするのは今に始まったことではありません。
 私だって、過去、ここのブログ記事がホッテントリ入りした時には、日に何度もブコメを確認したりしましたし。
 一文にもならないのに。
 
 しかし思うに、私たち以降の世代は、ホームページ運営とか、ゲームとかを通して、
「やったことが直ちに数値化され、ランキングが可視化される」
 という経験にそれなりに慣れてるわけで。
 
 ところが、校長の世代は、あまりそういう機会がなかったのだと思います。
 だから、ブログ閲覧数がブログ全体と記事ごとにリアルタイムで集計され、他校とランキングされる、というシステムの魔力にハマってしまったんだろうなあ、と感じました。

もう過ぎた冬至の話。

 もう時効だと思うので書きますけど。
 
 以前私が一緒に勤務した校長先生、いつもブログを更新してるんだけど、ある時、子どもの名前を間違えて書いて、保護者からクレームがあったんですね。
 
 そしたらブログに
「ブログ記事は全職員で目を通すようにしておりますが、チェックが行き届かず申し訳ありません」
 って「お詫びと訂正」が……。
 
 えええええ。
 自分で書いた記事にミスがあるのを全職員のせいにすんなよ。
 
 いや、職員が
「みんなブログ見ろ」
 って言われてたのは事実(ブログ閲覧回数をすごい気にしていた)だけど、我々も公開されてから見るんだから、公開されたものに誤りがあるのをこっちのせいにされても……。
 
 あ、でも、一度だけ、校長が書いたブログ記事にダメ出ししたことあります私。
「今日は冬至です。冬至は地球と太陽の距離が一番遠くなる日で……」
 
「うわあああ、こんなの公立学校ブログに載せたら、下手するとネットで晒されて大炎上してしまう!」
 慌てて校長に具申して(私はちゃんとブログ見てたんですよ。してない先生も多かった)修正してもらいました。(なお地球が遠日点に達するのは7月なのでその意味でも間違い)
 校長は(なぜか)渋ってたけど、私グッジョブだと思う。

ヘイト規制とオタク表現について。およびid:agricola氏との対話。

 昨年末の喜ばしいニュース。
www.bengo4.com
 ネット上で在日コリアン3世に対し執拗なヘイト行為を行っていた男性に、3年半を経てようやく罰金刑が、という話です。
 まだまだネット上にはヘイトがあふれているとはいえ、ともあれ良いニュースでしょう。
 
 ヘイト規制と表現規制についての私の立場を書いておきます。
 
 世の中には、
ヘイトスピーチ規制は、表現の自由を規制することに繋がるのではないか」
 と指摘する人もおり、それは懸念としては確かにもっともだとは思います。
 
 しかし、これまでも、我が国では無制限の「表現の自由」が認められてきたわけではありません。
「脅迫表現の自由」「名誉毀損の自由」「優良誤認広告の自由」といった「表現の自由」は法的に制約されてきたし、それは望ましいことだったと思います。
(いやまあ 、例えば
「『ガンが治る!』という広告にエビデンスを求めるのは表現の自由の侵害だ!」
 とか主張するトンデモ医療器具メーカーさんもいるので、そういう人たちは違う意見かも知れませんが)
 
 ですから、ヘイト規制が適切に行われるなら、それは社会にとって望ましいものになると思います。
 ……ましてや、それでオタクが困るとかまったく思いません。
 
 もちろん、それは「適切に行われるなら」という話で、地位も権力もある人が
「『保育園落ちた日本死ね』は日本ヘイトだ」
「反原発デモを見たら恐怖を覚えたのであれはテロ」
 とか言ってしまう最近の我が国では、ヘイト規制が本当に「適切に」行われるかどうかは予断を許しませんけれども……。
 
 しかしともかく、「ヘイトスピーチの自由」は「表現の自由」として保護する対象に含めるべきではない、というのが私の考えです。
 

ここからわりと私信。

 
 ところで、前掲の記事に最初についたブコメがこれ。

 

ネットのヘイト投稿、罰金30万円の略式命令 在日コリアンの女性「社会正義がやっと示された」 - 弁護士ドットコム

ねぇねぇ「わるいひょうげんをだれがきめるんだあー!」とか鼻息荒かった皆さん今何してんの?コミケで「表現の自由」を謳歌してるの?お前らが薄い本に入れあげてる間に「悪い表現」が有罪になっちゃったよ?(嘲笑

2019/12/29 10:20

 なんでやコミケ関係ないやろ。
 
 いや、これがもし、このコメントの前に、例えば
朝鮮人ヘイトが規制されたらオタク業界で一般的な朝鮮人ヘイト同人誌が作れなくなる!
 これは明らかに我々オタクに対する弾圧だブヒィ!」
 とか言ってるわけのわからんアホがいたならまあ話は分かるんですけども……。
 でもそもそも最初のブコメですからねこれ。
 
 私自身はコミケには行ってませんけど、大学時代に2度だけ行った思い出を大変懐かしく、また誇らしくも思っていますし、Twitterで知り合いのコミケレポートを楽しく・うらやましく読むくらいにはオタクなので、こういうコメントはいかにも心外です。
 
 そんなわけでやりとりが始まるのですが。
ネットのヘイト投稿、罰金30万円の略式命令 在日コリアンの女性「社会正義がやっと示された」 - 弁護士ドットコム

ヘイト表現はきちんと罰せられる社会でなければ…。/<a href="/agricola/">id:agricola</a>アニメや二次創作における表現の自由とヘイト規制がトレードオフの関係だとは私は思いません。どちらも守ることは可能だし、そうすべきだと思います。

2019/12/31 00:40

ヘイト表現はきちんと罰せられる社会でなければ…。/id:agricolaアニメや二次創作における表現の自由とヘイト規制がトレードオフの関係だとは私は思いません。どちらも守ることは可能だし、そうすべきだと思います。 - filinionのコメント / はてなブックマーク

一部オタクの唱える「悪い表現」を誰かが決めることはできないからエロ規制するな、という理屈を敷衍すれば「悪い表現」であるヘイトスピーチの規制と表現の自由トレードオフになる。萌え過ぎで脳が壊れてるのか?

2019/12/31 10:13

 えっ、萌え? エロ規制?
 
 なんでやエロ関係ないやろ。
 朝鮮ヘイトの話だぞこれ。
 
 朝鮮人3世女性へのヘイトが罰金刑になった、って話で、なんでエロ規制の話に……?
 
 どこの「一部オタク」の話をしてるのかわかりませんけど、この記事のコメントには
ヘイトスピーチ規制はエロ表現規制に繋がる!」
 とか言ってる人はいないし、前述の通り、私もそういう見解には与しません。 
ヘイト表現はきちんと罰せられる社会でなければ…。/id:agricolaアニメや二次創作における表現の自由とヘイト規制がトレードオフの関係だとは私は思いません。どちらも守ることは可能だし、そうすべきだと思います。 - filinionのコメント / はてなブックマーク

ヘイトスピーチ規制と表現の自由が難しい関係にあるのは事実として、ヘイトが罰せられた、という(喜ばしい)ニュースに対して「オタクざまあ!」と叫ぶのは、人権擁護というより単なるオタク憎悪なのでは。

2019/12/31 11:34

ヘイトスピーチ規制と表現の自由が難しい関係にあるのは事実として、ヘイトが罰せられた、という(喜ばしい)ニュースに対して「オタクざまあ!」と叫ぶのは、人権擁護というより単なるオタク憎悪なのでは。 - filinionのコメント / はてなブックマーク

「悪い表現を決める権利は誰にもない」と言ってる脳が壊れた連中は駆逐されろと思うことがすべてのオタクを憎悪することなのか。そいつは知らなかったぜ。勉強になるなぁ。ところでトレードオフになると認めるの?

2019/12/31 13:35

ヘイトスピーチ規制と表現の自由が難しい関係にあるのは事実として、ヘイトが罰せられた、という(喜ばしい)ニュースに対して「オタクざまあ!」と叫ぶのは、人権擁護というより単なるオタク憎悪なのでは。 - filinionのコメント / はてなブックマーク

適切にヘイト規制を行うなら、直ちにオタク表現とトレードオフになるものではないと思います。本件と何の関係もないコミケを持ち出して「悪い表現が有罪になっちゃうよ?」と謎の煽りをするのは藁人形叩きでしょう。

2019/12/31 14:39

適切にヘイト規制を行うなら、直ちにオタク表現とトレードオフになるものではないと思います。本件と何の関係もないコミケを持ち出して「悪い表現が有罪になっちゃうよ?」と謎の煽りをするのは藁人形叩きでしょう。 - filinionのコメント / はてなブックマーク

「悪い表現は誰にも決められない」なら「ヘイトスピーチ(という悪い表現)に該当するか決められない」と指摘する嫌味に自分の信仰を開陳しても無意味。「表現」を勝手に「オタク表現」に限定するのも不誠実だな。

2020/01/02 21:44

 ……それでまあ、いいかげん積み上げられたブクマタワーを追うのも面倒だし、100字に収まるように書くのも大変なのでここに記事を書いているわけですね。
 そんなわけで、返信はここのコメントとかにしてくださるとありがたいです。>agricola氏
 
 それで、今ひとつ、id:agricola氏の立場がよくわからんのですが。
 
 前述の通り、
「ヘイト規制を適切に行うなら、必ずしも表現の自由を侵害することにはならない」
 というのが私の考えです。*1
 
 話を「オタク表現」に絞ったのは、そもそもagricola氏がコミケやら「一部オタク」やらの話をしてたからだと思うんですが、なんだか不誠実らしいので表現の自由一般の話とします。
 
 それで、そういう私のコメントに対してトレードオフになると認めるの?」だの「自分の信仰を開陳しても無意味」だのおっしゃるってことは、agricola氏から見ると私の見解は「信仰」に過ぎず、氏としては、
ヘイトスピーチ規制は、表現の自由と直ちにトレードオフになるものである」
 とお考えだ、ってことなんでしょうか。
 
 まあ……そういう、
「あらゆる表現規制は公権力による言論弾圧に繋がる! 表現の自由は無制限であるべき!」
 みたいなラジカルな立場の人がいるのは知ってますけど……。
 でも、それはおそらく万人の万人に対する闘争、「マジョリティが弱者を踏みにじる自由」にしかならないと思うのですよね……。
 
 っていうか、それってagricola氏の脳内にいる「脳が壊れたオタク」の
「『悪い表現』を誰かが決めることはできないからエロ規制するな」
 と変わらなくないです?
 
 それともagricola氏は、
ヘイトスピーチ規制は表現の自由(オタク表現含む)への制約に直結する。そして私はそれを歓迎する!」
 というお立場なんでしょうか。
 
 最初のブコメを見る限り、それが一番近そうなんですが……他人の表現が制約されるのを喜ぶって、なかなか邪悪ではないでしょうか。
 
 ……いやでも、agricola氏って、過去はてブでお見かけする限りは左派的なコメントが多い(でも、しばしば文末に(嘲)とか(嘲笑)とか付いてるのでスター付けづらい)方だと思うので、そんな
「私は肉屋を支持する豚です!」*2
 みたいなことを言うはずはないとも思うんですけど……。
 
 とにかくよくわからんので、
「(ここにいない)一部のオタクは(ここではないどこかで)こう主張している」
 ではなくて、ご自身のお考えを述べて下さるとありがたいと思います。
 
 まあ……氏の内心を忖度するに、何か過去に変なオタクと関わり合いがあって、それで全然関係ない記事でフラッシュバック的にオタク批判を始めたんだと思いますが。
(私がオタク批判にいささか過敏になっているのと似ていると言えるかも知れませんが)
 
(上の引用には表示されませんけど、「萌えは脳神経を壊す」とかはてブのタグに書いてるのに、
「これは一部のオタクを批判したものでオタク憎悪ではない」
 っていうの、
「犯罪者の朝鮮人は日本を出て行け!」という発言が
「犯罪者である一部の朝鮮人を批判したもので朝鮮ヘイトではない」
 っていうのに似ていると思います)
 
 しかしそれは、女性のセクハラ被害を訴えるはずが「ヘテロ男性」全般を批判したり、原発反対を訴えるはずが「疑似科学批判クラスタは体制寄り!」とか言い出したりするのに似て、本来狙うべきでない相手まで巻き込むのは話をややこしくすると思いました。

*1:いや、「ヘイトの自由」も(「脅迫の自由」「誇大広告の自由」等と同様に)表現の自由に含まれる……と定義するなら別ですが。

*2:この言葉を使うと激昂する人がいるのでお断りしておきますが、「肉屋を支持する豚」というのは、
「私を含めた一般大衆は権力者から見れば全て豚であるのだから、我々は肉屋を支持すべきではない」
 という意味です。
「リベラルがオレをブタ呼ばわりした! だからリベラルは支持されないんだ!」
 とかお怒りの人が稀にいますが、ブタなのはあなただけではなく私もなのです。

保険セールスの方は読まないでください。

 どことは言わないけど、学校で保険の営業を受けています。
 そのセールス手法がひどいので覚え書き。
 
 元々、保険はもう入っているのでセールスなんか聞く必要はないんです。
 じゃあなんで聞いてるのかというと、学校の廊下で(校内に入ってくるわけですよ。もちろん勤務時間外だけど)
「校長先生の指示で、先生方に社会保障についての情報提供をしているので時間をいただきたい」
 って言われてうっかり了承してしまったわけですね。
 
 で、それが1回では終わらず、
「また来週お願いします」
 ですでに2回話を聞いていて、来週もまた「先生に合ったプランをご提案」しに来ることになっている。
 
 実は「校長の指示」っていうのは本校の校長ではなく、退職校長が役員に入ってるってだけの話だったわけですが。
「情報提供」ってのも、要するに日本の社会保障制度への不安を煽って商品を売るための話の枕だった。
 
 それで何がひどいかというと、客を欺く気満々のセールストークがひどい。
(最初の話を聞かせる段階からそうだったわけですが)
 
 話の途中で「あっ、これはただの保険セールスだ」と気付いた(遅い)私が
個人年金ならiDeCoに加入してインデックス投信を積み立ててるんですけど」
 と言ったところ、スクラップブックを取り出して
投資信託がいかに危険か」
 をご説明くださるんですが。
 
 まず、「たわらノーロード」(確か「8資産均等型」だったと思う)の
「~万円の積み立て投資が、~%の確率で~万円以上に」
 みたいな販売資料(だと思う)を取り出して、
「どうですか先生、この投資信託、いいと思いますか」
「その数字だけじゃよくわからんけどいいんじゃないですか(私は買ってないけど、確か積み立てNISAとかの対象商品に入ってた気がする)」
「ところがですね先生、これを見てください」
 
 と言って取り出したのが、投資信託の資金流入額・流出額の変動グラフ。
 
「このようにですね、投資信託というのは、ある月には一位になったのに、その直後に大幅にマイナスになってしまう、ということが起きるんですよ」
「ははあ」
「そして金融庁がなんと言っているかというとですね」
 
 と言って別な資料(新聞記事)を取り出し、
 
「まともな投資信託は全体の1%もない、プロでも選ぶのは困難だ、と、金融庁長官が言っているわけですよ!」
「ははあ」
 どこの新聞だったかは見ませんでした(だいたい、自分の言いたいことを言い終わるとさっとスクラップブックを閉じてしまう)が、内容としては、2017年4月、金融庁長官の基調講演を報じたものでした。
(講演内容は公開されていますhttps://www.fsa.go.jp/common/conference/danwa/20170407/01.pdf
 
「実際、私が知っているある先生も、長年投資信託をやっていらっしゃるそうなんですが、現在マイナス~円(6ケタの数字)で、プラスになっているのをほとんど見たことがないそうです」
「へえ」
 
 ……以上の話の何がおかしいか。
 
 まず、投資信託の「資金流入額・流出額」というのは、ざっくり言うと、その投資信託が買われているかどうかの指標です。まあ会員数の増減みたいなもの。
 買った人が儲かったか損したかを表すものではない。
 もちろん成績が悪くなると売られる傾向はあるでしょうけど、それなら価格変動のグラフそのものを見せるべき。
 
 次に、「金融庁長官も言っている」ですが。
 長官が
「現在の金融機関は、顧客をだまくらかして手数料で儲けるようなアクティブ投信の販売に血道を上げていて、ちゃんと顧客が利益を得られる商品が少ない」
 的なことを言ったのは確か。
 
 でも、それを踏まえて、金融庁自身がまともな投資信託(主にインデックス投信)を厳選したのが、積み立てNISAやらiDeCoやらの対象銘柄なわけで。
 金融庁長官は投資信託やめろとか言いたかったわけでは全然ない。
 
「プロでも選ぶのは困難」っていうのは、
「株の売買のタイミングを選ぶのはプロでも難しい。だから成績のいいアクティブ投信は少ない」
 って話であって、投資信託を選ぶのが「プロでも難しい」という話ではない。
 
 だいたい、こっちが
iDeCoでインデックス投信積み立ててます」
 って言ってるのに、
「アクティブ投信は悪質なのが多い」
 という話を持ち出して
金融庁長官も投信は危険だと言ってます!」
 って言うのは明らかに誤解を招こうとしている。
 
 運用成績がマイナスの「ある先生」が誰で、何を買っていたのかはわからないけど、おそらく長官の言うような悪質なファンドにひっかかってしまったのではと思います。
 ……その先生が実在するとすればですけど。
 
 家に帰ってから調べたのですが、「たわらノーロード(8資産均等型)」は、資金流入額がマイナスになった月は運用開始以来一度もないし、もちろんアクティブ投信でもないし、そもそも運用開始が2017年11月…つまり金融庁長官の講演より後だから、「長年やっている」銘柄ではあり得ない。
(「たわら」の他のタイプだと、2015年12月から始まっていたり、流入額マイナスの月が2・3回あったりするけど、とにかく「長年」ってことはない)
 しかも、積み立てNISAの対象銘柄に……つまり金融庁が選んだ「割と安全な投資信託」に入っている。
 
 いや、私は買ってないし、他人におすすめもしないですけど。*1
 
 要するに、保険の人は、違う話を意図的にまぜこぜにして、聞く人に誤解を与えようとしているわけです。
「たわら」の人と金融庁の人は風評被害で訴えてもよい。
 
 ちなみに、それで先方が売ろうとしている商品は、ざっくり言うと、ドル建てで年3%の利息が付く貯金を積み立てることで個人年金の原資とし、そこに介護保険などの保障と、宿泊施設の割引きやら劇場の割引きやらのこまごました特典が付く、みたいな話。
(その代わり解約返戻金抑制型なので、60歳より前に取り崩そうとすると減額される)
 
 ……私が理解した範囲ではそんなに著しく悪いとは思えないですけど……。
 でも、客に誤解させるトークをする人だ、ということはもう十分わかっているので、この理解にも穴がありそうな気がする。
 
「貯金」って言ってたけど、今ググった感じだとアメリカ国債じゃないのかな。
 いくらアメリカでも預金に3%も金利はつかない気がする。
 
投資信託と違って、20%の源泉分離課税がかからないんです!」
 って言ってたけど、それは無税だって話ではなくて、所得税とか住民税とかは別にかかるのでは。
 
マイナンバーが必要ないので、国に把握されづらい!」
 ……それをメリットとして言ってしまうのは……どうなの……?
 今の政府は税金を浪費してるとは思うけど、それでも脱税する気はないですよ私。
 
 あと、これはセールスではなく商品への疑問なんですけど、外貨建てで積み立てるのに、ドル側が定額で、毎月の日本円での支払い額が為替相場によって変動するのって、明らかに不利なのでは……?
 逆の方が成績上がるはずだよね……?
 
 職業に貴賎なし、とはいうものの、私は過去に他の保険屋と英会話のNOVAで酷いセールスを受けて騙されたことがあって、セールスマンというものにはかなり職業的偏見があります。
 それが今回また強化されてしまった感じ。
(今の車を買った時の営業所の担当者はすごく親切だったので感謝しています。他の大きい営業所に異動してしまったけど)
 
 金融庁長官が言った、銀行とかが窓口で売ってる投資信託に悪質なものが多い、というのは、セールスマンの給料を払うためにコストがかさむから、というのも一因なわけで。
 顧客に払う分とは別に、営業販売のコストも捻出しなければいけないんだから、顧客の取り分はどうしてもそれだけ減ってしまう。
 そう考えると、セールスマンが売りに来る保険商品を買うのも同じだよなあ、と思います。
 
 ……しかし、実際に「ご説明」を受ける場では、以上つらつら書いたようなことは相手には一言も言わず、「ははあ」「なるほど」で通してるんですが。
 だって指摘しても、向こうのセールストーク向上に貢献するだけで私は何の得にもならないし……。
 
 しかし黙って聞いていてもお互い何の利益もないし部屋も寒いので、次回で「ご説明」を聞くのはやめようかなー、と思っています。
 何と言って断ったものか……。
 
 しかし、保険に入る気が全くない私がまんまと騙されて営業トーク聞かされてるんですから、「私は詐欺には騙されない」みたいな過信がいかに危険か、という話だなあ、とつくづく思います。
 

*1:断じて金融商品のおすすめはしませんからね?